der heilige Punkt | ナノ



02
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ちひさな自分を劃ることのできない
この不可思議な大きな心象宙宇のなかで

もしも正しいねがひに燃えて
じぶんとひとと万象といつしよに
至上福祉にいたらうとする
それをある宗教情操とするならば

そのねがひから砕けまたは疲れ
じぶんとそれからたつたもひとつのたましひと
完全そして永久にどこまでもいつしよに行かうとする
この変態を恋愛といふ

(宮沢賢治/春と修羅)
***

双子ってヤツは、それこそこの世の中に出てくる以前、まだ何かを思考することもない勾玉のような形で母体に収まっている10ヶ月間から一緒なわけで。それがこの先二手に分かれるなんて想像もつかないこと。そりゃあ、きっとこの先だって、完全に、永久に、どこまでも一緒に行こうとするだろう。

「だからって、それは恋愛じゃないけどね。」

誰に言うわけでもなく呟いて、ページをめくる。

まだ五月だというのに、今週に入ってからずっと雨が降り続いている。
突然出された現国の課題のせいで、珍しく放課後の図書室なんて利用してるわけだけれども、たまに来てみる分には静かで誰にも干渉されないし、いい空間だなあとぼんやり思ったりして。紙の少し黴臭いような匂いも、それはそれで悪くない。

ふと図書室の入り口近くを見ると、来たときと変わらず、カウンターの中で本にビニールコーティングをかける作業をしている女子生徒が目に入る。あそこに生徒が入ってるの、初めて見たわ。というか、そもそもうちの学校に図書委員会なんてあったっけ?そして、あれは3年生??

「設楽さん、そっち終わった?」
「えっと、、、あと2冊です。」

先生が声をかけると、その女子生徒は顔も上げずに無表情で册数を答え、残りの作業に没頭している。ふーん、設楽先輩っていうのか。実は、今手にしているこの本も、さっき設楽先輩がビニールコーティングをかけたばかり。空気のつぶ(というか、あれは埃?)一つ入っていない、素晴らしい仕上がりに彼女の神経質さが垣間見える。オレのDSの液晶保護フィルムなんて、空気入りまくりですよ。

器用な人だよな。
それと、とても細い手首をしてた。

さっき、カウンター越しに本を渡してよこした手。
ブレザーの袖からのぞく手首の細さに、ちょっとビックリしたのを思い出す。
女子ってのは、みんなあんなに各部品が細くできてるもんなんだろうか。

ああ、なんにしろ、悠太の部活早く終わればいいのに。
窓の外を見れば、雨がどんどん酷くなってきた気がする。


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