お腹すいてない? | ナノ



餃子に生中
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「すみませーん。もういっぱいおかわりー。」

積み上げられた大量の餃子をツマミに、生ビールのおかわりを頼む女が、目の前に一人。

「ちょっと、史緒ちゃん飲み過ぎじゃね?」
「何言ってるのよう、まだ三杯目!」
「いやいや、ペースの問題だって。」

元々、川端サンは酒に強いイメージではあったのでそれほど心配ではないものの、さすがに今日は少し顔が赤い。

「ねえ、史緒、今日なんかあったの?」
「ふえ?」
「だってさー、やっぱりなんかいつもと違うよね。」

男性陣があえて触れずにいたことにズカズカと踏み込んでいく茉希を見て、ああ、帰国子女ってこういうとこあるよなあと、自分のことを棚に上げて思ってしまう。でも、まあ、気になるよな。店に入ってからずっと無言で餃子を食っていたオレも、さすがにそろそろ我慢できない。

だって、こいつ、明らかにおかしいだろ。

部屋で人参スープの味見をしていたときには、一瞬、いつも川端サンに戻ったような気がしたけれども、なんというか、まずさっきから一度も目が合わない。いや、そもそもオレが一言もしゃべってないのだから彼女がオレと目を合わせる必要はまったくないのだけれども、さりげなく、本当にさりげなくだが避けられているような気すらする。

そんな中、川端サンは店員が持ってきた生中のジョッキを半分近く一気に飲み干すと、ボソボソととんでもないことを喋り始めた。

「うーん、、、なんかねえ、たぶんねえ、、、」
「なによ?」
「いや、朝からずっとモヤモヤとしていて、さっきようやく解を得たのだけれども、」
「なんの?どんな?つか、悩み事??」
「いや、、、ようは、単に欲求不満なんだと思うのよ。」
「「「「はあ!?」」」」

一同絶句。

な、な、な、何を言ってんだ、こいつは。

そんな一同を尻目に、川端サンは脇に積んであった小皿を一枚取ると、酢を垂らして新しいタレを調合しながら、ボソボソと話を続ける。

「だからさ。あれですよ、わたしも彼氏とか欲しいなあって。」
「あ、いや、、、ええ?マジで?」
「なんでまた突然。史緒、今まで男の子の話なんてしたことないじゃん。」
「そうだよなあ。しかも欲求不満って、また、なんというか、表現がストレートな、、、」
「いやいや、生物学的にもそういうお年ごろじゃないですか。そんなときに、筋肉とか骨の名前覚えてる場合じゃないわけよ!っていうわけで、おじさーん、生中もう一杯。」

気がついたら先ほど頼んだジョッキはすでに空。ほんとに大丈夫か、こいつ。

つか、彼氏。彼氏ねえ。ふうん。
普段、あまりにも無防備な態度のこいつしか見たこと無いため、まったくそういうことには興味ないのかと思ってた。

周りが凍りついてるのをまったく気にもとめず、川端サンは小皿に垂らした酢に、大量の胡椒を振り入れた。

「酢に胡椒?」
「うん。なんか、ネットで見たの。ラー油と醤油とお酢ってのもスタンダードでいいけど、これも美味しいよ。」
「へえ。」

話を本題から少しそらすことで、オレはあんたの恋愛話なんて興味ないぜってなことをアピールしていると、長尾が脳天気に話を元に戻した。

「でも、史緒ちゃんならできるよ。すぐに、彼氏。」
「ううーん。そうかなあ、、、」
「できるできる。」
「また、長尾くんは励まそうと適当な事を。」
「いや、マジで、それこそウチの学部とかなら史緒ちゃんに告られて、断るヤツいないと思うよ?」
「ほんとに?そんな簡単にできるもんなの?彼氏。」
「できるできる。保証する。」
「ほんっとに適当だなあ、、、」

呆れたような声で小さく返事をした彼女は、新しく調合したタレにちょんちょんと餃子を浸しパクっと一口で食べる。小さい口でよくもまあ、、、と感心しながらそれを見ていると、川端サンが顔を上げ、店に入ってから初めて目が合った。

「山口くん。」
「は?」
「わたしと付き合ってください。」
「・・・・・!?」

はい?今なんつった??

ここは近所の中華料理屋。蛍光灯がこうこうと灯る、安っぽい店内。テレビでは野球のナイター中継。生中片手に、ムードもへったくれもない状況で、クラスメイト数名もいる中で、だ。

これは、いったい、、、

*****

ポカンとこちらをアホ面で見ている山口くん。
せっかくのイケ面が台無しだ。

ふー、、、それにしても店の中が暑い。
あれ?わたし酔ってる??酔ってる、、、のかな?というか、そんなことよりこの微妙な空気はなんだ?ああ、そうか、長尾くん。長尾くんが適当なこと言うからだ。

「はあ、、、ほら、長尾くん。嘘じゃん!やっぱダメじゃん!うちの学部オールオッケーじゃないじゃん!」

ため息がてら一息に悪態をつくと、微妙な感じで止まっていた空気がようやく流れ出した。

「え、ああ!冗談!?冗談なのね?うおー、ビビった。マジでビビったわ。」
「わたしも今回ばかりは、史緒がトチ狂ったかと焦ったわ。」
「いやいや、ほんとに。山口なんて、まだ固まってるじゃん。」

ふと山口くんを見ると、先程までのポカンとしたアホ面が、今度はいつものイライラ顔に変化しているのがわかる。

おおお、怒った?怒ったの??これはまずい。まずいぞ。

「いや、だって、ほらね。医師の卵としては、とりあえずなんでも試してみないと、、、」
「お前ごときが!オレで何かを試そうとするな!!」
「い!痛い!やめてー、頭グリグリしないでー!」
「黙れ。つか、お前今日は飲み過ぎだから!」
「えー、ダメー!わたしの生中!!ああー、飲んじゃダメー。」


「・・・・・。」
「なんか、あれよね。意外とお似合いよね。」
「そーな。けっこう冗談じゃなかったのかもしれねーな。」

「「なに?なんか言った??」」
「「「いや、なんにもー」」」

ああ、興奮したせいでアルコールがどんどん回る。
山口くんは怒ってるけど、まあ、そんな怒ってるわけでもなさそうだし。茉希ちゃんたちも何やら話込んで盛り上がってるみたいだし。

楽しいな。
餃子と生中は、正義だ!


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