03 野球部マネの場合
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わたしは野球部のマネージャーをしている。
小さい頃から高校野球が好きで、好きで。本当に好きで。夏休みは自分で大きなトーナメント表を作り、毎日テレビで高校野球を観戦しているような小学生だった。
プレイヤーとして野球をやりたかったという気持ちはもちろんある。しかし、残念ながらうちの高校には女子の野球部はなく。かといって、代替案としてソフトボール部に入ろうという気にもなれなかった。だって、野球がやりたいだけなら、お父さん達の草野球チームで今だってやっている。自慢じゃないが、中1の頃から不動の4番打者。
だからね、別に野球がやりたいわけじゃなかったんだ。 わたしは高校野球という、一生に3度しかチャンスのないイベントに参加したかっただけなんだと思う。
ーーー
高2の夏、地区予選二回戦敗退。 もちろん、ただの公立高校である松揚高校には、お似合いな成績だ。
「で、も、ね!!!」 「ああ、うん。わかってる。敷島の言いたいことはよくわかる。」 「ほんとに??悔しいでしょ??悔しいのよ、わたしは!!」 「おーい、チャーハン食いながら管巻いてる女子高生がここにいるぞー。」 「バナナジュースとか、チャーハンで酔えるんだから女子はすげーなー。」 「バナナジュース?何それ?」 「や、前に夏目さんがさあ、」 「何々!?夏目さんの話!??」 「ヤナ、、、」
ああ、もう、すっかり話がうちのクラスの美少女へと移ってしまった。ここから今日の守備練習の話に持っていって、一演説ぶちかましてやろうと思っていたのに。
まあ、いっか。夏休みはまだまだ始まったばかり。うちの学年が主力になるこのチームも、まだまだこれからだ。
腹ごしらえが終わって店の外にでてみると、まだ空は明るかった。
「じゃ、わたしこっちだから。またねー。」 「ん。おつかれさん。」
他のメンツが、店を出てもまだまだ下柳くんをいじってはしゃいでいる中、瀬田くんがわたしの声に気がついて返事をしてくれた。彼はかしましい野球部の中でも落ち着いていて兄貴肌。たぶん今回のチームは彼を中心に、、、なんてことを考えていたら我チームのムードメーカー佐々原くんが自転車を押しながら声をかけてきた。
「あ、敷島さん、オレ今日はそっちだから一緒帰ろうぜー。」 「そうなの?じゃ、荷物チャリに乗っけてもらおうっと!」 「つか、後ろ乗ってけばいーじゃん?」 「そう?」
そういうことなら遠慮なく、と、自転車の後ろに乗り込む。
「「ほいじゃーねー。」」
口々に「襲うなよー」とか「気をつけろよー」とかふざけたことを叫んでいるみんなに軽く手を挙げ、薄暗くなりかけた商店街を走り抜ける。
あ、空の向こうの方、綺麗な夕焼け。明日も晴れそうだ。
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