僕らの夏が。 | ナノ



01 瀬田くんの場合
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カキーン!!!

夏休みに入って、グランドは一部の運動部のみとなっているので使い放題。夏の予選に敗退し、3年が引退してしまった現在、新しいチーム編成をするためにも守備練習に熱が入る。真夏の炎天下の中、シートノックを行なっているのは、、、

「ライト、スタート遅いっ!!!打球がこなくても毎回ファーストのカバー!!」

グラウンドに響くのは女子高生の高い声。バッターボックスでバットを握るのは、監督でもチームメイトでもなく、マネージャーの敷島ナツメさんだった。

「あーあー、またヤナやられてるわー。」
「敷島も容赦ないよなあ。」
「つかさー、シートノックやるマネージャーなんて、普通いなくね?」
「ないない。あり得ない。何あのコントロール。ヤバイって。」

さっきまで敷島さんにコッテリと絞られてていた寺島と迫が、日陰で汗だくで倒れたまま文句をつけている。

「でもさ、敷島さんのおかげで、だいぶ守備が良くなってきたよな。」
「瀬田はさあ、敷島の特守受けることねーからそんな呑気なこと言えるんだよ。」
「そっか?」
「お。ヤナが戻ってきた。」

汗だくの上にグラウンドを転げまわった結果、身体中が泥だらけになっているヤナが、命からがらという様相で日陰に倒れこんだ。

「み、水、、、もうオレ、ダメだあ、、、敷島さん、酷い、、、」
「「「あーあー、、、おつかれ、ヤナ。」」」
「瀬田くん、村上くん!次入って!!」
「「うぃーっす。」」

レギュラーも補欠も入り交じり、次々と交代していくオレたちとは違って、敷島さんはさっきからバッターボックスに立ちっぱなしだ。凛とした声で送球の指示を出しながら、ものすごくジャストのタイミングでボールを左右へと打ち分けていく。

「捕ったらすぐにセカンド!1、3、バックホーム!!」

サードからの渾身の送球をミットに受け、チラリと敷島さんを覗き見ると、彼女の求めるスピードには遠く及ばなかったらしく間髪入れずにバットを構えている。

「そんな速さじゃ刺せないよ!もっかい同じコース!センター!!」

すぐさま打球がセンターど真ん中へと飛んでいく。返球のために前の方まで出てきてたセンターの一年生が、必死に追う。あ、転んだ。

ってまずいな、、、たぶん足ひねってるぞ。

「おい!だいじょ、」
「ひねった!?そのまま立たないで!!」

ミットを外して立ち上がったオレが声をかけ終わるよりも早く、敷島さんは持っていたバットを放り投げ、ベンチに置いてある救急箱をひったくるように掴むと、1年が倒れている場所まで全速力で駆けていく。手際よくユニフォームをめくり上げると、冷却スプレーを当てながら問診を始めた。

さっきまでの勇ましいノッカーぶりと、今の献身的なマネージャーぶりのギャップについつい見とれてしまう。見とれる?ってのも変だな、、、んー、でもやっぱり見とれる。いったい彼女は、一人で何役やるつもりなんだろうか?

苦笑しながらグラウンドの脇まで敷島さん達が移動したのを見届けたあたりで、目の前のバッターボックスに大きな影が、、、

「おい、お前ら、敷島がいないからってノックは終わらねえからな。」

監督だ。

「「「っしゃーす!!」」」(←注:おねがいしまーす、ね)

さて。まだまだ日は高い。練習はこれから!


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