僕らの夏が。 | ナノ



07 下柳くんの場合
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「それにしてはさー、ちょっと不穏な空気じゃね?」

ササヤンの言うことは、いつだって鋭い。だいたい当たってる、というかよく見てるなあって思う。

今、扉の向こうでは、噂の3年と、我らがマネージャーの敷島さんが相合い傘にて戻ってきたところで、部室内ではすっかり「やっぱりあの二人は付き合ってる!」という結論に達したばかりだったんだけども、、、でも、あれ?なんかモメてる??っていう感じに見えないこともない。

「んー、、、つか、敷島が着てるウィンブレ、あれ、誰の?」
「あ。ほんとだ。」
「サイズでかいね!ササヤンじゃないね!」
「うっせーなー、オレのだって敷島さんが着たらでかく見えるっつーの!」
「いや、あれは、、、」
「だいぶでかいよね?加藤先輩のお下がり?とか??」
「あのー、」
「うえー、なんだよそれー。」
「だから、」
「つか、なんだよ、瀬田!」
「ゴメン、、、あれオレの。」
「「「「ええ!?」」」」

ちょっと待って。それのせいじゃね?あの二人の空気が不穏なの。

みんなで一斉に瀬田を見る。本人、超申し訳なさそう。「いやあ、だって、濡れると風邪引くかなって、、、」とかなんとか、いつもの瀬田らしくない歯切れの悪い感じなっちゃってる。

「どー思う?」
「自分の彼女が、他の男の上着とか着てたらヤダわあ。」
「ナシだよな。」
「無し無し。しかも自分の後輩ってのがまた無し。」
「でもさー、そのくらいで怒るなよって気もするけどねっ。」

ドアの向こうをもう一度覗きみると、心底困ってますといった顔をした敷島さんが見える。
オレもササヤンの意見にまるっと同意だ。

「そうだよ。彼氏だからって、敷島さんにあんな顔をさせていい筋合いはないよ!」
「そーだそーだ。もう、別れちまえっ!」
「ええ?そこまで??」
「だってよー、敷島のあんな居た堪れない顔、オレ見たことねえもん。」
「まーな。まあ、なんつの?好きだからこそケンカするとツライ、みたいな?」
「なんだよ、お前、そんな経験者みたいなこと言って、、、」
「よし。ちょっと瀬田行ってこい。行って誤解を解いて来い!」
「ええっ、それは逆効果じゃ、、、」
「そうそう、火に油を注ぐだけだって。」

いつも通りに話を広げて適当に盛り上がってるだけのようにも見えるけれども、みんなの顔にいつもの悪ふざけと違って焦りというか、心配の色が見える。

気持ちは、みんな一緒だ。

敷島さんが心配。
そして、たぶん加藤先輩に嫉妬している。


その時、バシャバシャと水たまりを歩く音が近づいてきたのを合図に、みんなが急に無言になった。

敷島さん、、、大丈夫かな?泣かされてないかな??


ガチャリと開いた扉の向こうには、想像していたよりは元気そうな、しかし、心配顔のこちらを見て全てを悟ったかのような、苦笑いする敷島さんの姿があった。


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