04
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、、、残念?
残念って言ったか?言ったよな?何が残念? つか、残念って言ってから鼻先で笑わなかったか!?すげえムカつく。なんだあの女。てめえのその態度が一番残念だっつの。
毎日必ずどこかしらで会うわりに、なかなか距離を縮められずにイライラしてた矢先、昨日は一日に二度も例の看護師に会えた。というか向こうからわざわざオレを見つけて声をかけてきて、そして、「彼女はいるか?」と聞かれる。「何歳まで大丈夫?」と。
それって、そういうことじゃねーの? だとすると、 一番都合よく考えれば、「あなたの守備範囲内じゃなくて残念」。
でも、確か3つか4つ上って言ってたよな?本当はもっと年上とか、、、イヤイヤ、あの顔で成人済みってことはないだろ。ないない。
とすると、残る答えはあれか。単に誰か他のナースに「彼女いるか聞いてみて」って頼まれて、そいつが20歳オーバー。
たぶん、それだ。 つか、絶対それだ。 くそう。動揺して損したっ!!!
今日は金曜日。たぶん、陣内早紀の研修も今日が最終日。
当初の予定では3日もあれば女なんて落とせるつもりでいたのに、まったくそんな気配はないまま一週間が過ぎてしまった。オレのペースになることは一度もないまま、終始、陣内早紀に子供扱いされ続けた一週間。なんというか、屈辱以外の何ものでもない。あまりのままならなさに、もうあんな女どうでもいいじゃん、と投げ出したくなる気持ちもあるものの、負けを認めるのはどうにもプライドが許さないわけで。
放課後、そんなことを悶々と考えながら教室で帰り支度をしていると、授業中には見かけなかったトミオ達がやってきて声をかける。
「おーい、ヤマケン。帰り、なんか食ってこーぜー。」 「、、、用事あるからパス。」 「またかよー。てっめ、ばーちゃんの見舞いとか言って本当は女と会ってんじゃねーだろうなあ?」 「え!?マジで??もしかしてナース?白衣の天使!?合コン設定してっ!!」 「あ?そんなんじゃねーよ。」
そんなんじゃねえ。まあ、ナースはナースだけど、早紀は白衣の天使とは程遠い。あんな仏頂面の天使、こっちから願い下げだ。
ギャーギャーと好き勝手にに騒ぐバカ共をなんとか黙らせ、タクシーで病院に行くと、ちょうど入り口で母と遭遇。今週初めて、迷うことなく祖母の病室にいくことになったのはいいが、なんとなく物足りないというか妙な気分になる。
キョロキョロと辺りを見回しながら入院病棟に入ると、ちょうど祖母の病室のとなりの患者が亡くなったようで、周りが少しバタバタしていた。病院ってやつはどうしても、日常では忘れがちの「人の死」がとても身近になる。
そういえば、早紀が昨日、最後の二日間は自分の希望で緩和ケアの部署に行くと言っていたなあ、と、ふと思い出した。あとは死を待つのみの患者と向き合うのは、いったいどれだけハードなことか。そんなところに自分からわざわざ行くなんて、ヤツの気がしれない。
隣の病室とは違い、退院の準備を終えて和やかムードな祖母の病室。そして、壁一枚を隔てた向こうでは人が亡くなっているというこの現実。不思議なもんだ。
祖母への顔見せも済んだので、「用事があるから先に行くわ。」と個室のドアを開け廊下に出ようとしたその時、廊下から年配の看護師の低く落ち着いた声が聞こえた。
「陣内さん、少し早いけど休憩。頭冷やしてらっしゃい。」 「、、、はい。」
もしかして、と、ドアの影から廊下を伺うと、いつもの陣内早紀からは想像もつかないほど覇気のない後ろ姿が、年配の看護師に向かって頭を下げているのが見えた。
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