03
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いったいなんなの、あの子。マジであり得ないわ。
高校生にもなって病院内をチョロチョロ迷子になってるくせして、あの態度のでかさ。院長先生の息子とはいえ、あまりにも生意気でムカつく。
月曜日は救急外来、火曜日は小児科病棟、水曜日には検査センター、そして今日は口腔外科。どこも入院病棟とはまったく逆。受付入って右にあるエレベーターに乗れって、何度言ったらわかるんだあのバカ息子は。
「ねえねえ、陣内さん、また賢二くんの案内してたんだって??」
お昼休憩中、洗面所で歯を磨いていると、同じく休憩に入っていた先輩ナース達がワイワイと話しかけてきた。どうやら誰かに、さっきあのバカを連れて入院病棟まで歩いて行くのを目撃されていたようだ。
「、、、ええ、まあ。」 「いーなー、いーなー、わたしも案内したいっ!」 「かっこいいよね、賢二くん!しかも未来の院長先生でしょ?超玉の輿じゃん。」 「はあ。(あんなバカが国家試験に通るとは思えない、、、)」 「何か個人的な話とかした?」 「いえ。特には。」 「もったいないなあ。今度機会があったら彼女いるか聞いておいてよ。あと年上は何歳まで守備範囲か、、、」 「嫌ですよ。ご自分で聞いてください。」 「やだ!そんなの聞けるわけ無いじゃん!!いかにも物欲しげじゃん!!!」
実際、物欲しげじゃないか、とも思ったが、もちろん口には出さないでおいた。微妙なお年ごろでしょうしね。 ワイワイとかしましい先輩方を見送り、うがいをしてから少し乱れた髪を結び直す。
まあよくよく考えてみれば、確かにちょっとかっこいいような気もする。でもどちらかというと単なる雰囲気イケメンじゃないか。背の高さとか、服装とか、髪型とか?あとは院長先生の息子というセレブオーラ??
洗面道具をポーチに入れて扉を開けると、廊下に今朝も見かけた金髪を見つける。またか、、、と思いながらも、ウロウロされても邪魔なだけなのでさっさと誘導することに。
「賢二くん。」 「んあ?またあんたかよ。」 「それはこっちのセリフです。今度は何?院長室?それとも出口??」 「、、、出口。」
おや。ちょっと素直だ。
さすがに日に二回も案内されるのは気が引けるのかな?と思いつつ、「はい。じゃ、こっち。」と先頭に立って誘導する。
あ、そうだ。
「ねえ。ちょっと聞いていい?」 「なんだよ。」 「あのさ、賢二くんって彼女いる?」 「はあ!?」 「いや、答えたくなかったら別にいいんだけどさ。」 「、、、今はいない、けど?だからなんだよ?」 「あとさ、年上は何歳上まで守備範囲内??」 「なっ?!」
ちょうど出口のロビーに着いたので後ろを振り返ると、袖の長いカーディガンで口元を隠し、顔を真赤にして絶句している賢二くん。なんだ?彼女の有無とか、守備範囲を答えるのは恥ずかしいもんなのか??思春期の男の子はわからんな。
「どうしたの?」 「い、いや、なんでもねーよ。」 「あ、そう。出口ついたけど、タクシーも呼ぼうか?」 「、、、いや、いい。」 「そう。じゃ、気をつけて帰ってね。」
腕時計を見ると、休憩終了までちょうどあと5分。急いで戻らなくっちゃと早足で戻ろうとしたとき、後ろから「おい」と呼び止められる。
「ん?」 「3つ4つなら、全然いける。」 「何が?」 「だから、守備範囲だよ!!」 「あー、そっか、、、、、残念。」
さっきの先輩、確か今年で25歳だった気がする。
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