Aeria gloris | ナノ



01
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「」内は、全てドイツ語ってことにしてください。。。

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「愛、ここここ。なんて書いてある?登録できそう??」
「んー、、、たぶん。大丈夫。」

休日の昼下がり。わたしはクラスメイトのミシェルの下宿先でパソコンに向かっている。画面に映るのは、日本の動画サイト。ここにユーザー登録をして動画をアップするのが、今日のわたしのミッション。

ミシェルは日本贔屓のフランス人で、ガジェット&アニメ好きという典型的なヲタク。見た目は色白碧眼という、いかにもフランス女性らしい感じなのに、人は見かけによらないもんだ。学校で最初に会ったときからものすごい勢いで「日本人!?」と聞かれ、頷くと、笑顔で『ありがとうー。にほんだいすきー。よろしーくねー。』とハグされた。おおう。早速友達ゲットですよ。日本人で良かった。

詳しいことはよくわからないのだけれども、この動画サイトに自分達でアレンジまでやった弦楽アンサンブルをアップロードし、みんなに見てもらおうということなのかな?アップ先がyoutubeじゃないのはミシェルのこだわりらしい。曲は、10年前の日本のアニメの主題歌。リズムパートは、ミシェルがパソコンで打ち込んだものを使う。さっきトラックを聴かせてもらったけど、もうこれだけでもかっこいいからたぶんすごく良い物ができると思う。

「ミシェル、ここの譜割りちょっとおかしいよ?」

下の部屋に住んでいる、ロシア人留学生のアレクセイがミシェルの書いた譜面を片手に話しかけると、隣でヘッドフォンをつけて音源を確認していたタチアナ(同じくロシア人)も「ダメだわ、そもそもヴィオラじゃ音域が足りないわ。」と口を挟んだ。今回のアンサンブルは、ミシェル、アレクセイ、わたしの三人がヴァイオリン、タチアナがヴィオラという編成。

「じゃ、低音パートも打ち込む?」
「ええー、もったいないよ。打ち込みはリズムだけにしようよー。」
「じゃ、キー自体を変えるとか、、、」
「ダメダメ、それじゃ曲が台無しになっちゃう!」

もめている三人の話しをパソコンの前で聞きながら、いいことを思いついた。もう少し低音が出る楽器を足せばいいだけの話だ。唐木先生のところに出入りしていて面識がある、中国人留学生の陳さん。大学生でチェロ奏者の彼はとっても上手だった気がする。しかも、向かいのアパートメントに住んでるじゃないか。今はコンクールも終わって暇なはずだし、我ながらナイスアイディア!

「わたし、いいチェロ奏者知ってるから連れてくるよ!」
「え?ちょっと待ってよ、まさか陳さんのことじゃないでしょうね?」
「そうだけど?」
「うわー、ダメダメ。彼、こないだのコンクールでのファイナリストよ?こんなお遊びに参加してくれるわけないじゃない!!」

へえ。そうなんだ。

でも、、、ミシェルだって、フランス国内のコンクールではかなりの常連だったと聞いているし、タチアナもアレクセイもうちの学校では主席だ。わたしはともかく、お遊びというにはもったいないメンバーが揃ってると思うんだけれどもな。

と、その時、向かいのアパートメントのベランダに、洗濯物を干す陳さんの姿が見えた。

とりあえず、聞くだけでも聞いてみたらいいじゃない。窓から身を乗り出し、ブンブンと手を振りながら声をかける。

「おーい、陳さーん。」
「うわあ、愛、ダメ〜!!」
「あのねー、ちょっと弾いて欲しい曲があるのー。」
「もう、ダメだったら!陳さん、怪訝そうな顔してんじゃん!!」
「陳さーん、アニメ好きー??一緒に日本のアニソン弾きませんかー??」
「!!(うわあ、なにその誘い方、もうダメだ!!!)」

焦りまくるミシェルの予想を裏切り、「好き。」と一言言うと、陳さんは楽器ケースと共にミシェルの部屋にやってきた。

「・・・(ど、ど、ど、どうしよう。コンクールファイナリストが目の前に、、、)」

ミシェルはどうやらこないだのコンクールを見に行ってたらしく、陳さんのファンだったようで。緊張のあまり完全に沈黙。しょうがないので、みんなの紹介を一人で進めていく。

「えっと、こちらチェロ弾きの陳さんです。彼女がミシェルで、彼がアレクセイ、それからヴィオラのタチアナ。」
「「よろしくお願いします。」」
「あの、、、特にギャラとかも出せないんですが、、、」
「いいよ。」
「えーと、それで動画を撮ってサイトに、、、」
「”演奏してみた”か。」
「そうですそうです!うわあ、話が早い!!で、曲はこんな感じで、、、」
「ああ、ヨーコカンノか。」
「あれ?陳さん、けっこうなアニメ好き?」
「あ、しまった、でも衣装が4人分しかない!」
「あ、僕、猿のかぶりもので良ければ持ってるよ。」
「「「「・・・・・(な、なんで猿!?)」」」」

陳さんの部屋にあった猿のかぶりものは、なぜかわたしが被ることになり(日本のサイトだから、身バレ率が一番高いわたしが一番露出の少ない衣装で、という配慮らしい。)、無事にアンサンブルを録画することができた。演奏はかなりのクオリティだし、アレンジもいいし、ぜひぜひ日本の友達にも自慢したいぐらいなんだけれども、、、

「えっと、これで、アップロード、、、、、ん、できた。」
「「「「おおー!」」」
「ねえミシェル、、、最後のやつ、編集でカットできないの?」
「やーねー、愛。ああいうのがいいんじゃない。日本人のくせにわかってないわねえ。」

そういうもんだろうか。ああ、どうか知り合いが見たりしませんように。
わたしは異国の地で、猿のかぶりものを被っています。お母さん。

***

「なあなあ、ツイッターからなんだけどさ、これ見た?クオリティ超たけーの。」
「ほんっとだ、外人、パねーなー。」

昼休み、タブレットで動画サイトを見ながら隣の席のやつが何やら騒いでいる。

「ヤマケンも見る?」
「ああ?興味ねえよ。」
「まあまあ、そう言わずに。この金髪の子超かわいくね?」

画面には、頭にタチコマのぬいぐるみを乗せた外人数人+猿のかぶりものをした女が、弦楽器で攻殻機動隊のOPを演奏する姿。無駄にうまい。

演奏が終わり、猿がビデオの停止ボタンを押しにカメラに近づき、こけたところで動画は終わった。最後のカットは転んだ猿女の足のアップ。

「あはは。猿、かわいーよ、猿!!」
「パンツ見えそうで見えないところが秀逸。この子も外人かなあ。」
「最後だけもう一回見ようぜー。」

ふと説明書きを見れば、「ミシェル、アレクセイ、タチアナ、陳、愛 inner universe」とある。

「え、この猿、、、まさか、」
「どうしたヤマケン。」
「いや、なんでもない。」

まさか、まさかなあ、、、
めくれたスカートから見える生足を凝視しながら、同じ名前のある人物を思い出し、脳内で検証しようと試みるも撃沈。

足、、、あまりちゃんと見たことねえから、わからん。


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