70 ピースがはまる。
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ついついイラついて声を荒らげてしまったせいか、成田サンを泣かせてしまった。
頭上に「?」を掲げつつ、ボロボロと泣いている彼女に、さらにイラつく。
なんだ。なんでこんなことになったんだ? そもそも何の話をしていたんだ。まったくわからん! オレは一体何をやってるんだ!!
とりあえず人目につきすぎる街中から、人通りのほとんどない遊歩道へと連行し、ベンチに座らせる。
そうだ。あれだ。 ハルは水谷サンのもんだからやめとけって、そんな話だった。 あれ?でも、そもそも二人はさっき会ったばかりだし、やめとけも何もないんじゃ?オレ早まってねーか?
少し冷静になった頭でそんなことを考えながら、目の前で荷物を膝に乗せてハンカチで顔を覆っている彼女のつむじを眺める。
なんでそんな話になったんだ?
そんなことを思い始めていたというのに、彼女が顔を少しあげ、オレを非難するかのように「なんでダメなの?」と言った瞬間、冷静になりはじめてたはずの頭がキレた。
なんで?なんでダメかなんて、んなもん、ダメに決まってんだろ。
ハルはダメだ。水谷さんがいる。
でも、じゃあ、他の男だったらいーのか? 例えば、あのピアノ講師。
いや、それでもダメだ。 何だかわからないが、どうしようもなく苛立つ。
「いちいち説明しなくちゃわかんねーの!?」とか彼女に言いつつも、じゃあ説明できるのかと言えば、まだこの怒りの理由を明確には把握できていなかった。
目を見開いた成田サンの膝からはバラバラと荷物が落ち、さっき届けた紙袋の中からは青い布がこぼれ出す。 硬直している成田サンの代わりにそれを拾い上げると、それは見覚えのあるドレスだった。
「これ、オレ見たことあるわ。」 「え、、、?」 「あんた、これ一年の時の文化祭で着てたろ?」 「え、、あ、、、うん、そう、、、かも?あの、、、わたしの勝負ドレスで、昨日のコンクールで着た後に先生のとこに預けてあって、、、、、あ!5時までにクリーニングに出さないといけな、」
キョドりながらもオレの質問に必死で答える成田サンの声を遠くに聞きながら、今までの全てに合点がいったんだ。
たぶん、最初に会ったときから。
彼女の演奏に心動かされ、手に汗を握ったあの日から。
成田愛はオレにとって特別な人間だったんだろう。
拾ったドレスを彼女の膝の上に戻し、そのまま泣き濡れた頬に触れ、残っていた雫を親指でそっと拭う。 さらに顔を赤くした彼女のその熱っぽい目に引きずられ、こちらまで妙な気持ちになってきた。
というか、だ。
この顔。この目。 こいつ、絶対オレのこと好きだよな?
自分の気持ちには気がついた。なおかつ、勘違いとかではではなく相手がこちらに気があるとしたらだ、
これは、いっとくしかねーんじゃねーの?
あんたには、あのピアノ講師じゃなく、もちろんポッと出のハルなんかは論外で、他のどんな男でもダメだ。オレが許さない。
だから、
「もう、いいからあんたはオレにしとけよ。」
自分でも驚くぐらい落ち着いた気持ちでその言葉を口にしたら、なぜか息を止めてこちらを凝視していた成田サンが、さらに赤くなり、笑えるくらい死にそうな顔で取り乱しているのでついつい吹き出してしまう。
「プッ」 「え?え、、、あ、冗談!?冗談だった、、、よね??そっか、びっくりし、」 「や、冗談じゃねーけど?」 「えええっ!?」 「あんた、うるせーよ。で、どうすんの?」 「え?、、、、、え?どう??」 「オレと付き合う?」 「そん、、、な、、、ええっ??」 「嫌なわけ?」 「嫌じゃないです!!!!」
ちょっとビックリするくらいの大きな声で否定されて、さらに気分がよくなる。今日の成田サンは、オレをどこまでも調子に乗らせる。
「あっそ。じゃ、決まりね?」 「え!な、何が!?き、決まり??決まったの??」 「そう。決まり。」
今、決まった。
もうあんたは、オレのもんだ。
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