ウミノアカリ | ナノ



65 群像
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「あれ!?愛ちゃんじゃねーの?あれ。」
「え、マジで?さやかちゃんは一緒?じゃ、ねーのかあ、、、」
「うわー、久しぶりに見たわ。そういえば留年はどーなったん?」
「おーい、ヤマケーン。お前知って、」

少し離れた座席から聞こえるバカどもの声に、反射的にスマホを掴む。

そうだ。それだ。
オレが勉強教えてやった。結果を知る権利はあるはずだ。

オレから声をかける理由、あんじゃねーか、十分に。

成田サンの番号を呼び出すと、髪をかきあげて耳に当てる。呼び出し音を聞きながら、窓の外で彼女が慌てて携帯を探している様を眺める。

小動物のようにビクッとした後、コートのポケットを右、左、と順番に探った後、肩にかけていた鞄の中をゴソゴソと探って、、、探しだして、画面を見た。あ、硬直してる。何やってんだ、早く出ろ。


『も、、、もしもし?』
「オレだけど。」
『ヤマケンくん?』
「そう。あのさ、あれどうなったの?」
『え?』
「進級。もう3月だぞ、結果出てるんだろ。」
『あ!うん、、、あのね、』
「ああ、いいからこっち来て話して。」
『え?えぇ??こっちって、、、』
「後ろ振り向いて。そう。もっと右、、、行き過ぎだ、ちょい左。」

その場で挙動不審になりながらグルグルと回っている彼女が可笑しくて、ついつい遊んでしまう。

ようやく店の中からオーバーアクションで手を振っているバカどもに気がついたのか、成田サンがこちらに向かって控えめに手を振る。「待ってるからさっさと来い。」と言って電話を切ると、さっきから黙ってこちらを見つめていた水谷サンを睨み返す。

どーだ見たか。
成田愛が相手だろうと、電話くらい気軽にかけられんだよ、オレは。

「ヤマケンくん、、、あなたって、本当にわかりやすく負けず嫌いなのね。」
「はあ?」
「いや、もういい。わたしは予習の続きをするので。」
「あっそ。じゃあ、ちょっと行ってくるわ。」

開いていた参考書に付箋をはさみ、眼鏡を外すと座席を立った。

バカどもの所にすでに到着した成田サンは3人に囲まれ、それに人懐っこく挨拶をする佐々原、それからその後ろに隠れるようにして様子を伺う夏目がいる。

「よう。大晦日ぶり。」
「ヤマケンくん、ひ、久し振りだね。」
「えー、なになに??ヤマケン、大晦日になんかあったわけ!?」
「ずりーぞ、呼べよ!!」
「いや、別に。単にうちの病院でたまたま会っただけ。」

彼女の恩師がうちに入院していて、もう長くはないという話は前にしたことがあったためか、それ以上はトミオもマーボもそこに触れることはなかった。こいつらはバカだけれども、不思議とこういうときだけは律儀に空気を読む。

「で、愛ちゃん、進級できたん?」
「ええと、おかげさまで無事に進級できました、、、」
「「「おおおー。」」」
「あの!成田さんも、その、進級が危うい感じの、、、お仲間なんで、」
「あ、夏目さんとはちょっと違うと思うよ。」
「さ、ササヤンくんは余計なこと言わないでくださいっ!!わたしは単に、ミッティのお友達とぜひとも共通項を見つけることであわよくばお友達に、、、」
「夏目、お前うるさい。黙れ。」
「ヤマケンくんこそ黙ってろってんですよ!!」

ワイワイと騒ぐバカどものおかげか、成田サンの表情も明るい。
年末、毎日のように一人で病床の恩師と向き合っていたのだ。それなりの覚悟はとうにできていたのだろう。なんとなくホッとして、肩の荷が降りたような気分になる。

「で、今日はどこに行くわけ?」
「ん、これからってわけじゃなくて、さっきまでレッスンに行ってて、」
「レッスン!何それ、お嬢様な響き!!」
「お前ら、マジでうるせーよ、、、、、ああ、あっち行こうぜ?」

クイッとあごでさっきまで座っていた水谷サンのいる席を指すと、成田サンはちょっと複雑そうな顔をした。

「いや、でも、、、お邪魔なんじゃ、、、」
「単なる春季の予習だし、もうほとんど終わってんだろ。」
「そ、そうじゃなくて、あの、、、」

戸惑って遠慮している彼女に気がついたのか、水谷サンがこっちに来いと手招きをする。

「成田さん、お久しぶりね。そっちはうるさいからこっちに座ったら?」
「ほら。いーってよ。」
「あ、、、あの、ええと、じゃあ、、、お邪魔します。ゴメンなさい、、、」
「はあ?何謝ってんの?」
「いやあ、あはは。ほら、せっかくの時間を、、、」

ひたすら恐縮した様子の成田サンを座らせると、彼女と話す気満々の水谷サンがシャーペンを置いた。テントウムシのついたファンシーなやつ。小学生じゃあるまいし、いったいどこでそんなもん買うんだか。

「何飲む?」
「え!いや、わたし自分で買ってくるよ!」
「いーよ、ついでだから。」
「ええと、じゃあ、ミルクティーを、、、」
「りょーかい。水谷サンは?」
「わたしはけっこう。」
「あっそ。」

意味もなく威圧的な水谷サンと、これまた意味もなく腰の低い成田サンという凸凹コンビをその場に残し、レジに並ぶ。

さっきの水谷サンの言葉が、頭の中でリフレインする。

"成田さんのことになると及び腰になるのね"

そんなことない。
そんなこと、あるわけがない。

そもそも、そうなる理由がない。


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