62 もう一度仕切りなおし。
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「それ、旨いの?」 「おいひいへど、はらひ(美味しいけど辛い)」 「へえ。」
こうしてヤマケンくんとお店で二人で向き合うのは、たぶん二度目。ちょうど一年前、冬季講習後のスタバ以来だ。
目の前のガパオライスをスプーンで切り崩しながら、頭上には一年前と同じく「?」が浮かぶ。
どうしてこんな状況に?
バス停に着いたはずのわたしは、なぜか小さな子供のように手を引かれ、裏道に入った場所にある小さなカフェへ連れて行かれた。
入口にあったアンティークの壁掛け時計は、正午を指している。いつの間にかこんな時間になっていたんだなあとぼんやり思いながら、勧められるままに席につき、ヤマケンくんが注文したグリーンカレーにつられて、辛い物が食べたくなりガパオライスを、、、、、って、違う!!
そうじゃなくて、なんでわたしが彼と二人でこんなとこでご飯を食べているのか?「諦めなくちゃいけないとわかってるんです」と、さっき秋田さんとも話したばかりじゃないか。
「あんたさ、あの男となんかあったろ?」 「ん、、、え?」
今の状況すらイマイチ把握できていないわたしに対して、彼はとんでもないジャブを打ってきた。
「あ、あの、、、どうして、」 「わからないわけねーだろ。あんたら二人の間の雰囲気が前とは違うからな。」 「そうか、、、な?」 「で、なに?付き合ってんの?」
付き合ってるわけじゃない、、、けど、何もなかったわけじゃない、、、、けど、何か始まる前にもう終わってしまったというか、、、、、そもそも、こんな話をヤマケンくんにはしたくない。
眉間にしわをよせ固まっていると、「なんだ。違うのか。」と、勝手に納得されてしまった。
「とすると、あれだな。あいつに告白されたけどバッサリ断ったってわけね。」 「う、、、いや、その、、、」 「なんだ、まんざらでもなかったのかよ?」
なんてこった、わたしの脳内は丸見えか!!
狼狽えるわたしを見ながら面白くなさそうな顔をしつつも、ヤマケンくんの誘導尋問が続く。
「簡単に引きそうな感じにも見えなかったけどもな、あいつ。」 「いやいや!秋田さんはわたしなんかにはもったいない、、、というか、ほらきっと、そんなに重たい気持ちじゃな、」 「成田サンさ。それ、本気で言ってんの?」
わたしのしどろもどろの回答を、ちょっと怖い顔したヤマケンくんが遮った。
確かに秋田さんの気持ちは、帰国以来グラグラになっていたわたしにとって本当にありがたいもので。どこまでも暖かく、優しく、包み込むような彼の心を、重たいものじゃないだなんてどの口が言うのだ。どの口が。
誠意のかけらもない自分を咎められたようで、居た堪れない気持ちになる。
「、、、ごめんなさい。」 「オレに謝ってどうすんだ。」 「うん、、、ほんとに。」 「何がダメなわけ?」 「え?」 「だから、なんであいつじゃダメだったのってこと。」 「それは、、、」
それは、わたしがあなたのことを好きだからです。
ああ、もう泣きそうだ。
「それは?」
この人はどうしてわたしにこんなことを聞くんだろう? 前から秋田さんに関することをよく質問される。秋田さんはきっと同性から見ても素敵な人だ。興味があるのはわかるけれども、何もわたしに聞かなくたっていいじゃないか。
「それは、あなたには関係ない、、、こと、です。」
半泣きになりながら、なけなしの勇気を振り絞って出た言葉は、そんな、愛想のかけらもないものだった。
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