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49 闇に葬れ!
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コンサートが終わり、これから用事があるという瀬野さんと別れた後、駐車場までの道のりを秋田さんと二人で歩く。寒空の下だというのに、未だ興奮冷めやらぬというやつでわたしの頬はまだ熱かった。

「ほんとに良かったです!あの場所にいれて、本当に良かった!!」
「あの瀬野くんも絶賛だったもんね。まあ、そうだね。いい演奏会だったよ。」
「そんな冷静なフリしてもダメですよ。秋田さんが梢子さんを見る目、普段と明らかに違いますからね!!憧れのピアニストなのでしょ!?」
「んー。憧れ、、、、、まあ、そうかもね。」

そっけなく返された言葉に、なんだか別の意味があるようで。ついつい、秋田さんの顔を覗きこんでしまう。

「ん?なに?」
「いえ、なんだか、、、、、スミマセン。一人で興奮しちゃって。」
「いやいや、いいよ。喜んでもらえて、本当に良かったと思ってるし。」
「そう?ですか??」
「うん。だって、」

そこで一旦言葉を切り、助手席の扉を開けてくれる。

「元気なかったじゃん?」

そう言って、こちらをジッと見つめる秋田さんを前に、なんて答えればいいのだろうとしばらく呆然としていると、「寒いからとりあえず入りなよ。」と優しく笑ってくれた。

助手席のシートに埋まりながら、演奏会の興奮で一時的に忘れていた”例の場面”が再度脳裏にちらつく。曇りガラスをクリアにするためにゴオッと音を立ててエアコンがフル稼働する中、その音に紛れるかのように「失恋しました。」とつぶやいた。

「山口くん?」
「えーと、、、はい。」
「告白でもしたの?」
「いえ。そういうわけじゃなくって、、、単に、他にお相手がいたというか。」
「ふうん。山口くん、彼女できたんだ。」
「、、、たぶん。」
「たぶんー?」

呆れたような声で、秋田さんが復唱する。
たぶん。だって、しょうがないじゃないか。直接聞いたわけじゃないんだもの。

ただ、離れたところから寄り添う二人を覗き見ることしかできなかった。

「ちゃんと確かめといた方が、後悔しないんじゃないの?」
「でも、、、」
「まあ、愛ちゃんがいいっていうなら、別にいいんだけどもさ。」
「・・・・・。」

交差点で一時停車し、カチカチとウィンカーの音だけが車内に響く。

「わたし、」
「ん?」
「勝手に自惚れてたんです。だからすごくショックだった、、、水谷さんとヤマケンくんを見て。」
「水谷さんっての?相手の子も知り合い?」
「はい、、、でも、夏頃に彼女にはフラれたって聞いていて、だから、あの、油断していたというか、」
「うん。」
「もしかしたら、わたしにもチャンスがあるんじゃないかなんて、浅はかなことを思っていたんだと思います。ちゃんと自分の立ち位置をしっかり分かっていれば、こんなにショックは受けなかったのに。」
「立ち位置ねえ、、、」
「本当なら彼は、わたしなんて友達でいられるだけでも奇跡みたいな高嶺の花ですよ。」
「それ、だいぶ前にも言ってたよね。高嶺の花って。」
「そうでしたっけ?そんなに前からわかってたのに、すっかり忘れちゃってて、わたしほんとにバカですよね、、、あはは。」

堰を切ったように、どんどん自虐的な言葉が溢れてくる。
本当に今日のわたしはいつになく情緒不安定だ。

ちょうど家の前についたらしく、秋田さんはゆっくりと車を停車させると、ハザードをつけてからサイドブレーキを引いた。そして、サイドブレーキを握ったまま身体を屈め、うつむいていたわたしの顔を覗き込む。

「あのさ。さっき瀬野くんとも、気持ちは伝えなければなかったことにされちゃうからダメだよね、なんて話をしてたんだけどさ。」
「え?」
「まあ、愛ちゃんの気持ちは、伝えなくていいよ。そのまま闇に葬っちゃってください。」
「うわあ、酷いこと言いますね。」
「うん。言う言う。だって、」
「?」
「俺、愛ちゃんのことが好きだもん。もうそんな暗い顔してイジイジ考えるような自虐的な恋はとっとと忘れて、俺んとこ来なよ。」
「、、、え?」


え?

ええええ!?!?!?


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