48 誰もが彼女に。
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「で、結局、原因はなんだったんすか?」 「ん?聞いてないよ?」 「・・・・・。」
コンサート会場に着き、愛ちゃんがトイレに行ってる間、ロビーで待つ男二人。 俺の返答に不備があったのか、明らかに瀬野くんが不満顔に。
「え?あ、あの、、、瀬野くん?」 「はあ、、、秋田さん、さっきの僕の話聞いてました?わかりやすく体験談まで加えて言いましたよね?ちゃんと言葉にしろって。」 「あー、、、」 「あーじゃねえっすよ。どうせあれでしょ?核心には触れずに、愛さんお気に入りのアーティストの演奏聴かせて、音楽へのモチベーション上げさせて、なんとなーく解決?とか考えてるんでしょ?甘い。甘いっすよ。ツメが甘すぎっすよ。」 「はい、、、」 「だいたいねえ、秋田さんがそんなグダグダな人間だから、愛さんだってイマイチ頼れないわけっすよ。」 「そ、そうですね、、、」 「思春期の女の子の悩みなんて、9割恋愛ごとに決まってるじゃないっすか。きっとあれですよ、こないだの恋人未満な感じの金髪イケメン。あの後、夜明けを見ながら二人で何かあったんすよ。ね?心配じゃないんですか?心配でしょ??」 「はあ、、、」 「僕らの救世主に何があったのか、知りたいでしょ!?なんとかしてあげたいでしょ!!!」 「いやあ、恋愛ごとなら、なおさら他人がなんとかなんてできないじゃんよ。」 「また、そんな、大人みたいなこと言って。」 「それにさ、単に瀬野くんが気になってるっつか、知りたいだけじゃん。」 「うん、それは否定しません。6割は単なる好奇心です。」 「半分以上かよー。」 「ええ、だって気になるじゃないっすか。」
いつになく饒舌な瀬野くんの6割が好奇心だったことが判明した直後、小走りで愛ちゃんが戻ってくる。
「お待たせしました。行きましょうっ!!」
小さなホールではあるものの音響設備の良いこの会場で、急に頼んだにしてはかなりいい席に座り、演奏会の開始のブザーを待つ。
ブザーの後、静まり返った会場にコツコツと床板をヒールで歩く音が響き、ステージに梢子さんが出てきた。隣で愛ちゃんが、感嘆のため息をついたのが聞こえる。
そう、思わずため息をついてしまうような人なんだ。
何年か会ってないけれど容姿はまったくと言っていいほど変わらない。もう30代になってるだろうに、その細い肩はまるで少女のそれのようだ。
相変わらず綺麗な女だよなあ、なんて、思ったそのとき、ステージ中央でお辞儀をした直後の彼女と目が合ったような気がした。まあ、単にそんな気がしただけだ。あれだな、アイドル歌手のコンサートで、女の子達がみんな「わたしの方見た!」って言う。あれだよ、あれ。
この小さな会場の中で、たぶん、今、7割くらいの人間は彼女に対して恋にも似た感情を持っている。
そしてその割合はきっと、演奏が終わったときにはほぼ10割に変化しているだろう。
数年前、愛ちゃんが囚われたように。誰もが、彼女に恋をする。
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