06 満腹です。
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「え、彼女、、、でしょ?」 「彼女?」 「恋人?え?違うの!?」 「そうなの?」 「ちょ、ちょっと待って、俺一人で勘違いしてた!?」 「勘違いなの?」 「えええ、ちょっと待ってよ!!」
見たことないくらいに動揺している瀬野くんを見ていたら、さっきまで取り乱していた自分が嘘みたいに穏やかな気持になってきた。
そうか。わたしは恋人なのか。
「そっか。」
ならいいや。さっきの彼女が昔いろいろあった女の子だったとしても、今はわたしが瀬野くんの恋人だということなら、もうそれでいいや。
本当はいろいろ良くないんだけれども、わたしもそこそこ大人ですからね。ある程度のことは我慢できるというか、見てみぬフリくらいできるのです。
「うん。もう、いいや。」 「え?ええ!?秋乃さーん!!ちょっと、え?何??どういう、、、あの、、、僕のこと、もういいってこと?」 「は?」 「え、だから、俺は秋乃さんにフラれた、、、の?」 「瀬野くんさ、」 「あ、はい。」 「一人称、僕なのか、俺なのか、どっちかにしてよ。」 「えええ、なんで今そこは関係なくないっすか!?」 「だって、気になるんだもの。」 「ええと、、、じゃあ、僕。で統一します。」 「うん。そっちの方がいいと思う。」 「そう?」 「うん。急に俺とか言われると、ちょっと恐い。」 「それは、、、ゴメン。なさい。(というか、僕には今の秋乃さんの落ち着きっぷりが恐いっす)」 「ううん。もういいの。わたしもゴメンね。」 「何にゴメン?」 「わたしヤキモチ焼いたの。瀬野くんがさっきの子に対してタメ口で、呼び捨てとかにするから。」 「それだけ?」 「うん。あと、そう言えば好きとか、付き合ってとか言われたことなかったなあって。不安になった。」 「え!嘘っ!?」 「そうだよ。」 「そうだっけ??」 「うん。」
ええー、そうだっけー??なんてブツブツ言いながら、瀬野くんは履いていたスニーカーをズリズリと脱いで玄関に上がり込み、座り込んでいたわたしを立たせると手を引いてベットまで引きずっていく。
さっきまでの動揺というか、うろたえっぷりはもう見られず。いつも通りの落ち着いた所作でベットに座らせられ、目元をシャツの袖で乱暴に拭われた。
わたしも、まだ涙のあとは残っているものの、心の中はと言えば、さっきまでの号泣のおかげでスッキリと晴れ渡っている。 ゴメンね瀬野くん。自分の不安を全部押し付けて、あなたを悪者にして。これじゃ、本当にただの八つ当たりみたいなもんだ。
「あの、秋乃さん。」 「はい。」 「ちょっと、相談があるんですけど。」 「なんです?」 「僕の、恋人になってもらえません?」
うわあ、なんてこと!!
目の前には、こんな真剣な顔もできたのねってくらいに真顔の瀬野くん。 わたしの手をギュッと握って、こちらを覗き込むその姿に、ドキドキし過ぎて絶句してしまう。
「・・・・・。」 「いまさら遅い?」 「、、、、、お、おおお遅いよ!?」 「あはは。やっぱり?」 「わたしなんて、、、とっくの昔に彼女気取りだったもん!!!」 「僕は、最初にお持ち帰りした時点で自分のもんだと思ってたっす。」 「、、、そう、、、なの?」 「そうっすよ。だから安心して、いくらでも気取ってて。」
最初から、何も問題はないんです。 全部うまくいってます。
そう言って、瀬野くんはわたしを抱きしめた。
なんだか、うまく丸め込まれたような気がしないでもないが、、、でも、まあ、わたしが彼のことを好きなのは変わらない。わたしのことを、恋人だと思ってくれているという事実でお腹いっぱいだ。
彼の体温を身体中で受け止める。
それだけで、もう、お腹がいっぱいだよ。
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