01 どんな人?
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「聞いた?神崎リコがCDデビューだって。」 「はあ?あの子歌なんて歌えるの??」 「しーかーもー、プロデューサーがあの・・・・・らしいのよ!」 「うわっ、事務所がだいぶ金積んだんじゃない!?」 「それか、あれよね?」 「枕営業?さっすが女子高生ー。後先考えてないわー。」 「そろそろ、終わるよねー、あの子。」
・・・・・。
わたしよりも先にお前らの方が消えるだろうし、当たり前だが正解は前者だし。 誰があんなオッサンと寝るか。仕事だとしてもあり得ない。
ここはドラマの収録で来ているテレビ局のトイレ。ありがちな話だけれども、わたしの噂話をしながら化粧直しをするおばさん達(といっても、23、4のアイドルさんだけど)のせいで個室から出るに出れず、、、しょうがないので、携帯を取り出してゲームなんてしている。
ああ、早く出て行ってくれないかな。そんなに念入りに化粧直ししたところで、大差ないだろうに。
しらっと出て行って、「おつかれさまー」とか言ってもいいんだけどさ、こんな狭い場所だし明らかに聞こえてたってバレるし、そんなことになったらこれから歌番組とかで会ったときにものっそい気まずいし。一応そこいらへんは気を使うわけですよ。小さい頃から身につけた処世術。
くだらない争い事からは全力で逃げろ。
手元で携帯が震える。ゲームを一時停止してメールを開くと、先程、下衆な噂話にも出ていた例のプロデューサー様とギャラが折り合わなくてもめている、という事務所からの報告メールだった。
うわっ、何それ最悪。 もうこんなところにまで噂話として回っているっていうのに、今更「降りる」とかチラつかせながらのギャラ交渉だなんて、うちの事務所もなめられすぎだろう。
今回のCDデビューに関しては、もう2年くらい前からボイストレーニングと、ダンスレッスンをみっちりやって準備していた大事なプロジェクトだ。事務所がハクをつけるためにも、某大物作詞家をプロデューサーとして起用したいと言って、金にものを言わせて無理やり話をつけてきたわけだが、ちょっと無理が過ぎたらしい。
でもな、あんなバカみたいな歌詞の歌、歌いたくないしちょうどいいかも?
先日、打ち合わせで初めて会った大物作詞家は、ただの太ったオッサンで。その場で渡された歌詞も、なんだか耳障りのいい言葉だけを並べたパッとしない物だった。救いだったのは、コンペで選んだという曲がとても良かったことだけだ。
、、、あ、そうだ。
噂好きなおばさん達が出て行ったのを確認した後、ガチャリと個室の扉を開けて洗面台の前に立つ。携帯画面をスクロールしてマネージャーの番号を呼び出し、通話ボタンを押した。
「もしもし?わたし。リコ。」 『あ、メール見た?』 「うん。みたみた。で、さ、社長に伝言お願い。あのコンペの作曲家のスケジュール、押さえておいて。って。」 『え?』 「だからさ、いっそ、あの曲書いた本人に変えちゃおうよ。今回のプロデューサー。」 『で、でも、歌詞が、、、元々プロデュースも込みでの契約だから、、、』 「ああ、あんな歌詞いらないわよ。なんなら、わたしが新しいの書くし。」 『ええ!?』 「んとね、あんな使い古されたプロデューサーの名前で変に注目されるよりも、現役JKアイドル本人が書いた瑞々しい歌詞と才能あふれる新人作曲家のタッグの方がイメージがいいし、長持ちしますよ!とかなんとか、うまいこと言っといて。」 『ちょっとー、リコー、、、』 「大丈夫、大丈夫。でさ、あのコンペの作曲家、どんな人?男の人?女の人??いくつくらい???」 『ええと、確か30手前くらいの男の人。本職はジャズピアニストだとか、、、』 「へえ!いーじゃん!絶対そっちの方が"神崎リコ"のデビューシングルっぽいってば。」 『んー、、、まあ、そうねえ。言われてみれば、そうかも、』 「大丈夫!絶対うまくやってみせるから!ね!!」 『一応、社長には伝えておくけど、、、』 「よろしく!じゃ、わたし撮影あるから電話切るね。」
30手前のジャズピアニストか、、、いーじゃん、かっこいいじゃん!しかも作曲家としては新人。誰の手垢もついてない。なんて素晴らしい物件!!ああ、どんどんイメージが湧いてくる。ちょうど、大御所相手だと自分の思うとおりにできなくって嫌だなあと思っていたところだったのよね。そもそも、わたしのことはわたしが一番良く知ってるっつの。他人にいいようにイジられてたまるか。
少しだけ気が重かったCDデビューが、一気に楽しみな出来事に変わってしまった。
あとは、ちょっとかっこいいお兄さんだったりすると、 やる気でるんだけどなー。なんて。
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