02 愛すべき音の配列
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瀬野くんは、最近、とても機嫌がいい。 どうやら今やっているレコーディングのお仕事が、とても楽しいらしい。
「瀬野くんの好きなアーティストだったりするの?」 「いや全然。ただのアイドルちゃん。芸能界のお仕事。」 「え!芸能人!?誰?誰?」 「えーと、神崎、、、なんだっけな?リコ?」 「うそっ!神崎リコ!?こないだの映画わたし見たよー!!」 「へえ、あの子、女優さんなんだ?」
なんだなんだ、ご機嫌なのは神崎リコのせいなのか?確かにかわいいよ!?かわいすぎて、わたしなんかが嫉妬するのもはばかられる!!
「むー。」 「秋乃さん、何怒ってんすか?」 「いや、、、別に怒ってないです。」 「でね、こないだ諸事情でプロデューサーが変わったんすけど、変わった人がすごく良くて、」 「ん?」 「歳は一個上ですごく近いし、才能は半端ないし、毎日超楽しいっす。」
あら。なんだ、そうか。そっちか。 イラッとしていた気持ちが、あっという間に晴れていく。ですよねー、瀬野くんはアイドルとか興味無さそうだもんね?仕事大好き、音楽バカだもんね?心配することないない。
「さっきまで編集してたやつが神崎リコの?」 「そうそう。まだ途中だけど、聴いてみます?」 「うん!」
ゴロゴロしていたベットからようやく二人して起き上がる。瀬野くんが煙草に火をつけながら、パソコンの電源を入れたりしている間、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してから仕事場のソファの上に膝を抱えて座った。
夜型で仕事ばかりしている瀬野くんと、雑貨屋店員であるわたしはなかなか時間が合わなくて、お店が翌日休みの日になるとこうして瀬野くんのおうち兼仕事場にお邪魔しては、彼が仕事をしているのを眺めているのが至福の時間。
このソファは、わたしの定位置だ。
「えっと、、、用意できたよ?」 「こっちもOK!聴かせて聴かせて!」
スピーカーから流れる音楽に耳を澄ます。
へえ、神崎リコって歌うとこんな声なんだ。アイドルの曲っていうわりには、気合入ってるなー。いい歌だなー。さすが瀬野くんのお仕事だ!!
学生時代から音楽は大好きで。バイト代の全てをつぎ込んで、それはそれはたくさんのCDを買いあさり、たくさんのライブに足を運んだりしていたものだけれども。わたしはここ最近、まったくCDを買わなくなってしまっている。
なんというか、瀬野くんの家で聴く音楽だけでもう十分なんだ。 彼の作る音楽だけあれば、それでいい。 わたしの脳内は、たぶん、もう相当いかれている。
「どうっすか?」 「うん。とてもいい!」
「ふーん、そっすか。」なんて平静を装いながらマウスをいじる、少しにやけた横顔をわたしは見逃さない。かわいい。かわいいなあ。わたしみたいな素人のほめ言葉を喜んでくれるなんて、そういう素直で子供みたいなところも大好きだ。
「でもさ、いつも邪魔だったりしないの?」 「何が?」 「いや、仕事中に部外者が後ろでゴロゴロしてて。」 「あー、、、」
う、言葉につまってる。やっぱり邪魔なの? そりゃ、そうだよね。
瀬野くんは、ちょっと曇りがちになったわたしをチラリと見てから、またモニター画面に向き直る。
「あのね、キミがそこにいると、かっこいいミックスができる。」 「え?」 「ような気がする。」 「え??」 「ので、好きなだけそこに座ってるといいですよ。」
ああ!!
かわいい、かわいい、わたしの瀬野くん。 あなたの並べた音の配列を、わたしは心から愛している。
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