03 山口家の力関係。
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「あれ、医務室、、、は?」 「うん?特についていっても医者にできるようなことは何もないからな、任せてきた。」 「・・・・・」
着陸直後、成田サンとこのじいさんを搬送するため少し待ち時間が長くなっただけで、特に通常と変わらず飛行機を降り、荷物を受け取るためにターンテーブルの前に立っている。小煩い妹と母親は少し離れたロビーのベンチに座っているため、普段はそれほどしゃべらない親父がめずらしくよくしゃべる。
「で、お前、あのお嬢さんとはどういう知り合いなんだ?」 「予備校が一緒だった。今はオーストリアに留学中らしい。」 「なんだそれは、、、偶然にもほどがあるな。」
確かに偶然にもほどがある。 というか、本当に成田サンだったのか、あまりに一瞬のことだったので今となっては実感がない。
「それより、さっきの人のさ、具合は、、、」 「ああ、あのじいさんか。」
そう。あのじいさん。確か、彼女のヴァイオリンの指導者だったか。そもそもあいつが海外に行くことになったのは、あのじいさんがオーストリアに呼ばれたからだろ?
「海外で仕事を続けられるような状態なわけ?」 「あー、正直無理だろうな。できればすぐに帰国して処置をした方がいい。もしかしたら透析なんかも必要になるかもしれん。」 「ふーん、そう。」
ということは、、、帰ってくるのか?
グルグルとスーツケースを乗せて回るターンテーブルを眺めながら、「あいつら喜びそうだよなあ」と、3バカ+サヤカの顔が思い浮かぶ。ただ、彼女的には、音羽女子みたいな緩い学校に戻ってくるよりも、海外で勉強していた方がよっぽど実になるに違いない。とすると、一人で残るか?
ようやく回ってきた自分の家族分のスーツケースを受け取ると、ベンチでやいのやいのと喋くりまわる妹達を連れて到着ロビーを出た。まだ午前中の明るい日差し。ホテルから来ている迎えのドライバーに荷物を任せ、車に乗込む。
着いたら昼食を食べて一眠りしようと思っていたのに、夕方から市内観光に出たいという提案を車内でされ、ついつい無口になってしまう。ぜってーやだ。めんどくせえ。
「それでね、ホテルの近くの音楽堂で今夜演奏会があるらしいのよ。素敵な建物らしいわよ?」 「ん?」 「ね、パパ!いいでしょ??伊代、行きたーい!!王子とか来るって書いてある!!!」 「んん?そうだなあ、、、」 「あなた!行きましょうよ。」 「ああ、、、そうだよなあ、、、」
煮え切らない親父に、俄然乗り気の女性陣。チラリとこちらを見る親父の顔に「お前が断れ」と書いてあるため、一息、ため息をついてから口を開く。
「おい、伊代、王子っつったって三十路のおっさんだからな?時差ボケで今晩は出かけたくねーよ。」 「えー、お兄ちゃん、そんなこと言わないでっ!わたしのロイヤルファミリーとの素敵な出会いが、」 「ねえよ。」 「えええー!?でもでも、ほら見て?」
空港でもらったらしいパンフレットを差し出される。「ここ!」と指さした先には成田愛の名前が英語で記載されていた。
「ね?日本人も出るみたい!同じ日本人としては応援しないと!!」と、絶対にそんなこと思ってねーだろうってなことを、いけしゃーしゃーとのたまう妹を無視して、親父にパンフレットを回す。
「これ、さっきの子だわ。」 「え、さっきの?へえ、、、、、よし、行こう。」
は?
「行こう、行こう、何着ていく?」と盛り上がる女性陣と、「ふーん、さっきのあの子がねえ。へえ。」とニヤニヤしながらパンフレットをめくる親父。
うぜえ。うざすぎる。
でもまあ、そういうことなら行ってやらないことも、ない。
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