ウミノアカリ | ナノ



28 キリリと刺す。
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「来た来た!愛ちゃーん!こっちこっちー!!」

席から半分立ち上がって、ゲーム機片手にブンブンと手を振るのは半年ぶりのマーボくん。その横では同じくゲーム機を持ったトミオくんとジョージくんが、ニコニコ?というか、ニヤニヤ?しながら手を振っている。

ヤマケンくんは、、、あれ?いない??

「あ、あの、遅くなってゴメンナサイ。あれから、またちょっと先生に捕まってしまって、、、」
「ふーん?愛ちゃん、なんか進級もやばいらしいじゃんっ。呼び出しだなんて、ふっりょー。」
「ふ、不良!?そんなんじゃないよっ!?」
「いーじゃん、ちょっとグレた愛ちゃんもいいわー。」
「よ、良くないよっ!違うからね?!」
「おい、マーボ、、、本気にするからあんまりからかうな。」

聞き覚えのある低音に振り返ると、ドリンクを持ったヤマケンくんが後ろに立っていた。「そろそろ来ると思ってた。」と言いながら暖かいカフェオレを差し出される。わたしが戸惑いながらも受け取ろうとすると、それをかわし、「とりあえず、荷物置いて座れば?」と、空いてる席にコトンとカップを置いてくれた。

で、ですよねー。

カバン持ったままマグカップ持ってもどうにもできませんもんねー、、、
ああ、なんだかもう、欧州でエスコートには散々慣れてきたはずだというのに、相変わらずのスマートさにクラクラする!!

「で。どうなの試験?」
「う、うん、、、とりあえず数学は捨てるとして、」
「もう捨ててんのかよ。」
「だ、だって、教科書見ても、なんのことやらサッパリなんだもん!!」
「音女って、今どのへんやってんだよ?」
「ええと、、、」

カバンからさっき買ったばかりの数学の教科書を出すと、付箋を挟んであった今回の試験の範囲を適当に開いて渡す。

「このへん、です。」
「ふーん、ベクトルか。」
「元々数学は得意ではないけれども、今回はほんとにサッパリ、、、」
「概念さえ理解できれば、ワンパターンなんだけどもな。」

ヤマケンくんは、教科書をペラペラとめくりながら制服の胸ポケットからシャーペンを取り出すと、キュッキュと丸をつけはじめた。

「ここと、、、それから、ここ。あとここも。」
「え?えっと、、、え?」
「これは丸覚え。」
「う、うん。」

持っていたシャーペンをわたしに渡し、目の前に教科書を開いて置く。次々と繰り出される有難い要点の数々を、意味のわからない呪文を書き写すかのようにせっせと書き込んでいきながら、これがわたしに理解できる日は来るのだろうか?とだいぶ不安になってきた。

「なあ、そろそろ終わったー?」
「こっちはいーからお前らは冒険の続きでもしてろ。」
「ヤマケンてめっ、オレらの冒険なめんなよっ!」
「は?」

やいやいと言い合いをするみんなを苦笑いで見ながら、もらったカフェオレで一息つく。

「ゴメンね、こんなとこで勉強始めちゃって、、、」
「いやー、愛ちゃんの進級のためなら全然っ!」
「そうそう。進級に比べれば、オレらの冒険なんて、なあ?」
「あ、ありがとう、、、でも、あまり進級進級言わないで、、、本気でヤバいような気になってくるから。」
「実際ヤバイんだろーが?」
「う、、、」

正直、顔面蒼白だ。

帰り際に学年主任にも呼び出されたけれども、留学が前提での籍の確保だったので、途中で戻ってきてしまったわたしの扱いにはかなり先生方も困惑しているらしく、、、

「でも、自業自得だから、、、」
「サヤカちゃんに勉強教えてもらえば?」
「え?」
「同じ学校なんだし、科は違っても範囲は似たようなもんなんでしょ?」

それだけ言うと、ドーナツを頬張りながらトミオくんがジッとわたしを見ている。

「なかなか頼ってくれないって、スネてたぜ。」
「そ、そんな!」
「なあ、マーボ?」
「そーねっ、確かにサヤカちゃん相当スネてたよなあっ。」

サヤカがみんなにそんなことを言ってたなんて、考えもしなかった。
今朝だって、無理に踏み込んでくるようなことはせず、適度な距離感で余計なことは何一つ言わず、、、、、

って、ああ、なんか、どうしよう。今すぐ彼女に会いたい。会ってゴメンって言いたい。心配かけてゴメンって、、、違う。

ああ、違うよ。


心配してくれて、ありがとう!!だ。


急にムズムズと落ち着かない様子になったわたしの前で、トミオくんが時計をちらりと見て「そろそろ6時半かー。」と独り言。それに返すかのようにマーボくんが「あー、そろそろ部活とか終わる時間だよなー?」と誰に言うわけでもなく重ねる。

「、、、あ、あの!わたしちょっと用事を思い出して!!」
「ふうん?いってらっしゃーい。」
「どうもありがとう!!!」
「いえいえ、どういたしましてー。」
「ヤマケンくんも、勉強みてくれてありがとう!」
「オレに教わっといて赤点はナシだからな。」
「うん!!」

バタバタと荷物をまとめると、お店を出て学校の方向へ走り出す。

まだいるかな?
部活の子達と、ご飯食べに行っちゃったかな?

わたしはバカだ。大バカだ。
いろんな人の応援を、好意を、自分のことにかまけて蔑ろにして。自分の好きな人の恋愛事情を気にするよりも先に、しなくちゃいけないことが山ほどあるじゃないか。応えなくちゃいけない気持ちが、他にあるじゃないか!!

すっかり日が落ちて暗くなった道を、白い息を吐きながら全速力で走る。

キリリと刺す脇腹の痛みさえ、心地いい。


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