02 ニアミス健在。
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顔面蒼白のまま今にも倒れそうな様相の彼女は、「何か持病は?」「今、服用している薬は??」と矢継ぎ早にされる質問がまったく耳に入らないらしい。ただただ、小さい声で「お願いします、お願いします」と繰り返している。
持ってきた鞄を親父の足下に置き、「医者は来たからとりあえず落ち着け。質問に答えて。」と耳元で子供を諭すように促せば、ガタガタと震えながらも後ろを振り返り大して驚くこともなく、小さく「ヤマケン、、、くん?」とオレの名を口にした。
「なんだ、賢二。知り合いか?」 「ああ、ちょっと。」
親父は「すごい偶然だな。」と言いながら立ち上がると、成田サンに目線を合わせてゆっくりとしゃべり出した。
「ちょっとビックリしたかもしれないけれども問題はないよ。軽いショック状態だがすぐによくなる。」 「ほ、ほんとですか!!」 「で、お孫さんかな?君のおじいさんは何か持病がある?服用している薬とかがあれば知りたいんだが。」 「あ、、、あの、血縁者ではありません。持病や薬についても、わたしは特に何も聞いていないので、、、」 「そうか。じゃあ、ご家族に確認することはできるかな?」 「はい。奥様がウィーンのご自宅にいらっしゃいますので、、、電話で確認することは可能です。」 「着陸したら、まずそれを確認して。一応、空港の医務室に運ばれる手はずになっているから、現地のスタッフに伝えること。」 「わかりました。」
受け答えがだんだんしっかりしてきたので、まあ、大丈夫だろう。
それにしても、こんなところで再会とは、、、ニアミスの健在ぶりに驚きを通り越して呆れてしまう。しかも、相手もまるで驚いた様子はない。まあ、今はそれどころじゃねーってとこだろうけど。それにしても最初に名前を呼んだ以外はこちらに目もくれず、ガン無視状態なのだけはどうにも気に食わねえ。
何にしろ、医者でも当事者でもないオレがここにいても邪魔になるだけなので、親父に「戻ってる」と目で合図をし、成田サンは意図的に無視して自分の座席に戻った。
親父、医務室にはついてくのかな?オレも行こうか、暇だし。荷物持ちとか必要かもしれねーし。成田サンもまあ、心配だし。
それにしても旅行か?連れのじいさんの具合が悪いからすぐウィーンに戻るのか?いや、むしろすぐには動けねえよな。ホテルどこだ?今までのパターンだと、同じホテルだったりとかして。
そんなことをグダグダ思いながら、窓の外を見る。眼下には白い雲が延々と続き、なんとも言えない色の空がその上に乗っかっている。
足を組み直しつつ、もう一度さっきの成田愛を思い出す。 髪、伸びてたなあ。なんか、ちょっと大人っぽくなったような気もする。ああ、少し痩せたのかな。
スウェーデン、悪くねーんじゃねーの?
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