ウミノアカリ | ナノ



25 それはつまり。
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昨日の夜は、眠れなかった。

帰国後ずっと溜め込んでいた胸のウチを、昨晩、ヤマケンくんにぶつけた。
彼はそれを、簡単に同意するわけでもなく、かと言って聞き流すわけでもなく、辛抱強く聞いてくれた。

話をしながら考えがどんどんまとまっていき、逃げても逃げてもわたしを追いかけてきたあの「影」は、結局具体的な形を持たないものなのだなあと、なんとなく気がついた。

答えなんてない。
スッキリとするようなわかりやすい解決法もない。

家に帰ってから、「明日から学校に行こうと思う」と母に伝えると、ニヤリとしながら「あら。山口くん効果?」と言われてビックリする。「なんでヤマケンくんのことをお母さんが知ってるの!?」と問い詰めれば、電話があったこと、秋田先生と一緒にお店にいると伝えたことを教えてくれたのだった。

すっかりニアミス病が再発したのだとばかり思っていたけれども、昨日のヤマケンくんとの遭遇には、そこに彼の意思があったことを知ってものすごく嬉しかったんだ。

だから、今日は学校に行く。
いつまでも逃げてちゃダメだ。これからどうするのか、どうしたいのか、きちんと自分で決めなくちゃいけないのだから。




ピンポーン

インターホンの音が鳴ると同時に玄関を開ける。
昨晩、明日から学校に通う旨をサヤカにメールしておいたところ、約束通り迎えに来てくれたのだ。

「出てくるの、早っ。」
「えーと、待たせちゃいかんかな、、、と。」
「ふーん。いい心がけじゃないの。」

実のところ、もう10分以上前からローファーまではいて玄関で待機していたわけだが、そこいらへんはバレると恥ずかしいので何気ない顔をして、「さ、いこ。」と促す。

久しぶりに着る制服に少し気恥ずかしさを感じながら、サヤカの横を歩いていると、「で、どういう気持の変化ですかね、愛さん?」と、向こうも久しぶりのこの状況が気恥ずかしいのかぎこちない様子で尋ねてきた。

「、、、実はですね、昨日ヤマケンくんに学校に行くよう言われまして。」
「え、ど、どういうことでしょう、、、か?」
「ちょっとよくわからんのですが、昨晩、街中で会いまして、学校に行け、と。で、ちゃんと行ったかどうかチェックの電話もしろ、と。」
「ヤマケンが?」
「そう、ヤマケンくんが。」
「へえ、あのヤマケンが、、、」
「うん。」
「で、素直にノコノコと登校することにした、と。」
「エヘ。」

エヘ、じゃねーよ、と頭をはたかれた。痛い。

「でも、実は、愛がまだ学校に行ってないって話、わたしがしたんだ。昨日、ヤマケンに電話で。」
「そうなの!?」

さ、サヤカはヤマケンくんと普通に電話するような距離感なのか!いつの間に!!と、ちょっと衝撃を受けてみたりして。

「うん。まあ、ヤマケンはすでに秋田先生から聞いてたって言ってたけど。」
「ええ?秋田先生??」
「そうそう。」

わたしが半年いない間に、みんなの関係性が変わっているようで、謎は深まるばかりだ。そういえば、そもそもヤマケンくんがうちの電話番号を聞いたのも秋田さんからだと言っていたし、でも、秋田さんとの接点がまるで思い浮かばないし、、、、なんにしろ、

「なんか、、、知らないところでみんなに心配をかけてたみたいで。ゴメン。」
「や。わたしは何もしてないからさあ、、、つか、ヤマケンが空気読まずに突撃してくれて良かったわ。」
「ん、んー、、、」
「まあ、あれだね。イケメンに限るってやつ?他の人が言っても聞かなかったでしょうに。」
「いやあ、、、そういうわけでもなくって。」
「そう?」
「たぶん、もう少し早くに言われても、動けなかったと思う。」
「そっか。じゃあ、タイミングが合ってたわけね。」
「、、、うん。」

バス停に並び、通学ラッシュのバスの中にムリムリ乗り込む。
つり革に掴まりながら、周りに聞こえないよう、小さな声でサヤカが話しかけてくる。

「そういえばさ、ヤマケンと何かあったの?」
「え?何が??」
「だって、ヤマケンが急にそんな風に世話焼いてくるの不思議じゃん、、、」
「わたしもよくわからないんだけれども、、、秋田さんが頼んでくれたのか、な?と。」
「え?秋田さんって愛がヤマケンのこと好きなの知ってるの?」
「うん。」
「うわっ、あんた容赦無いわね、、、」

なんでよ?と頭上に疑問符を掲げながら、つり革に捕まっている手を右から左へと持ち変えて、サヤカの方に向き直ると、少し困ったような顔をしたサヤカが、周りに聞こえないように小さな声でささやいた。

「あのさ、きっといずれ3バカとかから聞くと思うから先に言っておくけどさ、」
「ん?」
「あいつ、フラレたらしいんだ、、、水谷さんに。」
「、、、え?」



バスがガタンと揺れ、坂道の途中で止まった。海明学院前〜というアナウンスを聞きながら、特徴的な色の学ランを着た男子学生達がバスから降りていくのをぼんやり眺める。

フラれた?ヤマケンくんが??
それは、つまり、彼が水谷さんに告白をしたということだ。


彼が、思いを告げずにはいられないほど、彼女のことを好きだということ。だ。


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