ウミノアカリ | ナノ



20 丸顔の彼女。
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「そうですか。では、電話があったことだけお伝え下さい。」

ガチャン

、、、若干懸念していた水谷家の悪夢が繰り返されるようなことはなく、成田サンの母親のしごく常識的な対応にホッと胸をなでおろしながら通話が切れる音を確認した。

肝心の成田サンはというと、今日は買い物に出たまままだ帰ってきていないらしい。連絡先を例のピアノ講師から聞いたという旨を伝えていたため、「そうそう、街中で秋田くんとバッタリ会ったらしくって、御飯食べる?とか、ライブを見る?とか言ってたわ。前に発表会やったお店で。」なんて余計な情報までくれたりして。

あの店か、、、確かけっこう近い気がする。

以前なら、このままここらへんを歩いてりゃバッタリ会うパターンだ。でも、たぶん、今は違う。なんだかよくわからねーけど、けっこう近いところにいるってだけで、顔を合わせることはなくお互い家に帰ってしまう。そんな確信めいた予感があった。

ま、偶然がないなら、自分の意思で会えばいいだけのこと。

再度携帯を手にしてこないだの店を検索すると、青く光り自分の位置を示す矢印は思った通り店のすぐ側にある。画面とにらめっこ状態のまま、慎重に青い矢印と店の位置が近づくように歩いていると、液晶画面にポツンと落ちてきた水滴で雨に気がついた。

うわっ、マジかよ。とりあえずどこか、屋根のあるところに、、、そう思って近くのアーケードまで走って行こうとしたその時、閉まった酒屋の軒下に雨宿りをしながら携帯をいじっている成田サンの姿が目についた。

ふふん。やっぱり、オレに不可能はねえ。

そのままクルッと方向転換をして、酒屋の軒下に滑り込む。彼女はまだこちらに気が付かずに、せっせとメールを打っているようだ。まあ、成田サンのことだから、雨が降ってきたから帰るのが遅れますだとかなんとか、母親にメールでもしてんだろう。

つか、携帯持ってんじゃねーかよ。なんなんだよあのおっさん、家電なんて教えやがって。すごい無駄な時間を過ごした。携帯だったらもっと早くにかけてた。もっと早くに会えてた。

会えて、、、

そうだ。ここ最近のイライラの原因がはっきりした。

ストックホルムで変な別れ方をして以来、オレは彼女が心配だった。
といっても、単にあれだ。友人としてというか、知り合いとして。目の前で見てた責任?みたいな?
とにかく彼女が今どうしているのか、自分で確かめたい。オレ的にはそれだけの話だ。

成田サンの話を、成田サン以外から聞いてもしょーがねえ。

あのピアノ講師もそうだし、さやかもそうだ。あいつらはこんな女に何をそんなに遠慮しているんだ?自分では直接会って話しもせずに、見守ると言えば聞こえはいいが、単にビビって触れないだけじゃねえか。それに巻き込まれていること自体腹立たしいが、何よりも思い悩んで一ヶ月もウダウダしていた自分が一番腹立たしい。

未だにメールを四苦八苦しながら打っている成田サンに再び視線を戻す。
海外で見た彼女よりも、さらに一回り小さくなったような気がする。どちらかと言うと丸顔の彼女は、痩せてもあまり目立たないはずなんだけれども、肩のラインが明らかに細くなった。

成田サンの兄貴は「案外元気だった」なんて言ってたが、実の兄のくせにどこ見てんだ。佇まいからして、以前の彼女とはまるで違う。そう、なんというか、何かに遮断されたような、現実感のなさが漂っている。以前の彼女は、、、

って、オレはストーカーか?

意外と彼女のことをよく見ていた自分に、今更ながらに気がつく。


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