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14 赤いビートル。
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結局、美容院に行ってお兄ちゃんに説教を食らった後、携帯ショップで新しい番号をゲット。帰国の連絡は、とりあえずサヤカとクラスメイトの数人という音女メンバーのみにした。

サヤカには連絡が遅れたことをかなり責められたものの、わたしが今、少し不安定な状況だというのを察してか、それ以上のことを追求されることは特になく。「学校来る日が決まったら教えてね、初日くらいは迎えに行ったげる。」と、どこまでも男前な対応。有難いことこの上ないです。

そんな周りに甘えてグダグダのわたしは、そろそろ学園祭の時期だというのに学校にはまだ行っていないわけで、、、今日も今日とて、お母さんのお使い中だったりします。切れたトイレの電球を買いに行くという地味ではあるが重要なお使い。よし。E26の60Wの電球ゲット、と。

ん?そうか。今日は日曜日か。

目的を達成し、店を出て表に並んでいるテレビにちびまる子ちゃんが映っているのを見てようやく曜日に気がつくとは。きっとニートってのはこんな感じなんだろうなあと、しみじみと今の自分が17歳女子としては間違っていることを実感する。

そんな中、ふと視線をテレビから外の道路にずらすと、見覚えのある赤いワーゲンビートルが止まっているのが見えた。

「あ、、、秋田さ、、、」

いつも通りのやる気があるんだかないんだかわからない飄々とした様子でハンドルを握る懐かしい顔に、ついつい声をかけそうになったのを慌てて飲み込む。というのも、助手席に女の子が座っているのに気がついたのだ。遠目だけれども、ずいぶんと綺麗な子だというのだけはわかる。

彼女かな?

いやいや、それにしては秋田さんよりもだいぶ若そうな気が、、、それこそ、わたしと同年代と言っても過言ではない感じ?

とすると、新しい生徒さんとか??

秋田さんはあくまでもピアニストが本業で、レッスンで生計を立てているわけではない。本人も、レッスンは趣味でやってるだけだと言っていた。自分が教えて上手くなっていくのが面白い、と。だからやる気のない生徒さんや相性が悪いと思った生徒さんはあっという間にお断りしてしまうし、そもそもあまりたくさんの枠をとらない。

あの子が新しい生徒さんなら、わたしが戻る枠はもうないかもなあ。

なんとも言えない複雑な心境で車を眺めていると、後部座席からなんだか見覚えのあるおじさま二人組が降りてきて車の後ろに回る。二人がトランクから取り出したベースと、スネアを見て、それが発表会でセッションを一緒にさせてもらったリズム隊の二人だと思いだした。名前は確か、、、タツミさんと、ウエダさん?

そんなことを思い出しながらも、やっぱり声はかけられず。

綺麗な女の子を助手席に乗せたまま、走りだした赤いビートルを、ただただ見送るだけだった。


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