ウミノアカリ | ナノ



13 キキミミたてる。
=====================

「ふーん。でもなんで秋田くんが電話しないわけ?」
「だからほら、楽器から遠ざかりたいってことは、音楽から遠ざかりたいってことで、秋田くんは音楽側の人だからさー。」
「あー、なるほどね。でもさ、だからって何もあの金髪イケメンに頼むことないじゃん。」
「まーね。帰国を知らされてないくらいだし、彼氏でもなんでもないわけでしょ?」
「むしろ、実は出国前に振られてたりとかして?」
「そうそう!だとしたら、超迷惑だよねー。」
「、、、もう、二人共その話はいいから続きをお願いしますよ。マ、ジ、で!」

ただいま都内の某スタジオにて、新しい曲のデモを作成中。

今時、パソコン1台でなんとかなっちゃうはずなんだけれども、それだけで完結させちゃうのってちょっと苦手だし。腕のいいマニピュレーター(音作りとか打ち込みとかしてくれるプログラマさんのことね)の知り合いとかもいないし。新しい人と仕事するのって、大変じゃん?俺、こう見えて人見知りだしさー。

あと、なんだかんだ言っても生楽器でやるのが好き。なんせ「こんな感じで」って言うだけで良い感じにやってくれるしね、思いもよらないアイデアとか勝手に向こうから出てくるし。アナログ万歳ってなもんですよ。

今日のメンバーはいつものリズム隊、辰巳さん(ドラム)と植田さん(ベース)。二人はバレンタインにやったセッションで愛ちゃんとは顔見知りのため、ついつい彼女の話になってしまい、演奏も打ち合わせもせずにこんな状態。茶飲み話しに来てんじゃねーぞ、と思いつつも、人に話したことでちょっとスッキリしている自分もいたりして。

彼女が帰国してから、かれこれ一ヶ月が経つ。
もちろん、俺のところに連絡はまだない。

山口くんはあの日、彼女に電話をしただろうか?
二人の間に、何か進展があったとしたら、、、そう考えると、俺はいったい何がしたかったんだと、なにやら無性に腹立たしい気持ちになったりもするわけで、、、

いやいや、今は、まず仕事!!

「じゃ、ここんとこもう一回お願いします。えっと、サビ終わったとこ3拍目の裏で切ってください。」
「ん。ここ俺もブレイク??」
「そうそう、んで、4裏でベースがブーンってやって、Cメロいって、、、」
「はいはい。ブーン、、、と。」

三人で譜面にメモを書き入れながら打ち合わせを再開すると、スタジオの重いドアがロックがかかっていなかったかのようにスーッと開いた。

「秋田さーん。差し入れ持ってきたー。」
「「あ、リコちゃんだ!」」
「リコ、今日は歌入れとかないよ?こんな時間に私服で何やってんの?学校は??」
「えー、今日、日曜日ですよ?やだなあ、これだから自由業の人は。曜日感覚まるでないんだからあ。」

スタバの袋を下げて入ってきたのは、今ちょうど曲を書いている張本人の女の子、リコだった。

そういえば、彼女も17歳。愛ちゃんと同い年だ。歌い手としては新人ではあるものの、小さい頃から子役として芸能界にいるせいか、立ち居振る舞いも落ち着いているし、精神的にも驚くほど大人だ。なので一回りも歳が違うというのに、すっかり仕事仲間として馴染んでいる。なんせ、芸歴だけでいえば、彼女の方がずっと先輩だしね。

「そんなことより、秋田さん。マネージャーが呼んでますよ。ロビーで待ってるってー。」
「え、うそ。なんだろ?」
「さあ?」

いってらっしゃーいと、三人に見送られてロビーへ向かう。

あ、ひとつコーヒーもらってくればよかった。いやいや、後でいっか。それにしてもさっきドア開けっ放しだったのかなあ?ずっと喋ってただけで大きな音は出してないから、まあ、迷惑にはなってないだろうけど。

あれ?でも、リコ、いつからあそこにいたんだろ?


prev next
back



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -