12 三つ巴
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学校帰り、いつもの美容院の扉を開けると、迎えてくれたのはなぜか成田サンとこのロリコン・ピアノ講師だった。
「じゃ、俺、帰るわ。山口くんごゆっくり〜。」 「あ、ああ、秋田、もうちょいいて!あ、あのね、山口くん、あのね、」 「、、、はあ、なんすか?」 「愛とはいったい、、、あのー、どういう知り合いなのかなあ?なんて、ね?」
なんだ?こいつが何か余計なことでも吹き込んだのか?
「、、、予備校が一緒でした。」 「予備校!?予備校ね、予備校かー!」
ぱあっと顔が明るくなった成田サンの兄貴を見て、事の次第を理解する。余計なことを吹きこまれたわけじゃなくて、何も説明してないからこういうことになってたってわけか。
久しぶりに会ったピアノ講師に、凹ましてやりたい気持ちがムクムクと湧いてくる。こいつやっぱりどうにも気に食わねえ。
「そういえば、成田サンにはこないだ会いましたよ。」
サラッとそう言うと、横を向いてコーヒーを飲んでいたピアノ講師がピクッと微かに反応した。ざまあ。
「え?愛に?どこで??」 「ストックホルムで。」 「「はい?」」
今度は成田兄と声まで揃えて、明らかに反応。ちょっといい気分だ。
「夏休みに旅行で行ってたんすけど、たまたま向こうでバッタリ会って。」 「うわー、ストックホルムってのは、人とバッタリ会うような所か?もう、スケールがデカ過ぎて俺には何がなんやら、、、」
と、ちょうどそこで店の電話が鳴ったため、成田兄が席を外し、ピアノ講師と二人きりになった。
「久しぶりだね、山口くん。」 「そうっすね。」 「で、愛ちゃんなんだけどさ、向こうで何か変わった様子とかなかった??」
変わった様子、、、か。
移動中の飛行磯のなかで恩師が倒れて、その動揺からか演奏会でも満足のいく演奏ができなくて(素人目には十分すぎる演奏だったけど)、最後は半泣きでオレの前から走り去って行きましたよ、なんてことはもちろん教えてやらん。オレが何もできなかったみたいだから。(←実際そうです)
「さあ?別に。」 「ふーん、、、」
ピアノ講師は、飲み終わったコーヒーカップを受付の女に渡して、もう一度こちらを振り返った。
「あのさ、愛ちゃんが日本に戻ってきてるの。知ってた?」 「え、」 「そっか、山口くんのところにも連絡ナシか。」
「お前、そんなことも知らねえのかよ」と言われているような気がしてイラッきていたら、ヤツは携帯電話を取り出し、画面を見ながら近くにあったチラシの裏にサラサラと何かを書いてオレに差し出してきた。
「これ、愛ちゃんの実家の番号。」 「は?」 「彼女、帰国してから楽器を弾いてないらしい。学校にも行ってない。」 「え、ちょっ、」 「もしも良かったら、何か声かけたげて。」
ちょうどそこへ、成田兄が電話を終えて戻ってきた。
「じゃ、今度こそ俺帰るわ。」 「おう。秋田、サンキュな。」
二人が別れの挨拶をしている横で、一応軽く頭を下げてこちらも挨拶すると、「じゃ、山口くんよろしくね。」と言われた。
さっき渡された紙を、クシャッと丸めてポケットに突っ込む。 よろしくって言われたって。
なあ?
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