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81 一週間後のアポ
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”来週学園祭があるので、もしも時間があったら見に来て欲しいです”

そう連絡があったのは、夏休みも終わってしばらくしてからのことだった。放課後、身支度にざわつく教室内で、思わず固まってしまう。送信時刻を見ると、どうやら今日の昼休みに送信したものらしい。


「・・・・・。」
「ん?ヤマケンどうした?怖い顔でスマホ睨んで。」
「なんかあった?」
「・・・、いや、別に。」
「はあ?そんなわけねーべ。」
「なになに??愛ちゃん帰ってきたとか!?」
「・・・・・。」
「マジか!当たりか!!」
「今から行く?音女迎えにいっちゃう??つきあおっか!?」
「これから予備校だから。」

ギャーギャーと騒ぐ三馬鹿を置いて、サッサと一人で教室を出る。

来週の文化祭に出るということはすでに日本に戻ってきているということだろうに、その連絡はなく、さらに今から会おうとかではなく、来週末のアポだ。

別にオレだって暇なわけじゃないし、帰ってきたから急に会おうと言われたところで時間が作れるかというと微妙なところだが、それでも学校帰りにちょっと顔を見に行くくらいはできるだろう。

来週末まで一週間、待たなければいけない理由とはなんなのか。まったく、思いつかない。

いつものオレなら相手の都合は無視して、「帰ってきてるなら、今すぐ顔出しにこい」くらいの返信はしただろうに、ひと夏ほったらかしにされていたことでなんとなく意地になっていた。

一時期は日本での受験を匂わせたりもしてたけれど、結局、成田愛はあの日病院で言った通り、ウィーンに戻る道を切り開いてきた。それなりの地位にいる恩師という後ろ盾もなくなった異国の地に一人で戻り、この短期間でそれなりの結果を出して帰ってきたのだ。

オレだって、決してこの夏遊んで過ごしていたわけではない。

ここ数回、模試での結果は上々。苦手な分野を一つづつ潰し、年明けのセンター試験に向けて最後の追い込みをかけている。でも万全かと言えばまだまだ違う。


受かるよ。東大医学部に、絶対に行きます。それで山口先生みたいなお医者様になる。


そう彼女は言い切った。
何を不安に思うことがあるか。寄せられた信頼には答えるべきだ。


「ま、しばらくはお互い、自分のやらなくちゃいけないことに集中しないとな。」

誰にいうわけでもなく、下駄箱で靴を履き替えながらつぶやく。会いたい気持ちは大きいものの、それが自分ばかりというのがどうも癪に障る。


”おかえり。何時にどこ行けばいーか教えて。”

いろいろ言いたいことはあるがすべて飲み込んで、できる限り簡潔に返信。

”パイプオルガンのある一番大きな講堂です。
音楽堂って案内が出てると思います。
わたしは日曜午後の部なので13:30から開演です。”

彼女にしては珍しく、あっという間に既読がついて、返信が返ってきたので少し驚く。

あれ。これって返事来るの待ってた?
今、このまま電話したらいーんじゃねーの?そしたら会えたりするんじゃね?

なんてことを一瞬思ったりもしたのだが、
ここはもう男の意地だから。
オレから会いたいだなんて絶対に言ってやらん。


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