01
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「あー、だりー。」 「ほんとよねえ。いっそ生徒会主催にして、走らずに裏方に回りたいくらい。」 「、、、そうっすね。」 カチ、カチ、カチ、
ここは昼休みの生徒会室。二年の先輩二人とオレとで、今度の総会のための冊子を作るため机に並んだプリントを順番に並んで重ねていってはホッチキスで止めるという作業に没頭している、、、はずだったのだが。
「ったく、今から雨ふらねえかなあ。」 「雨降ったら中止なの?」 「、、、いや、延期じゃないっすかね。」 カチ、カチ、カチ、
「何回延期したら、中止になんの?」 「そうねー、学校のスケジュール的に、延期できるのは2回ってのが現実的な数字かしらね?」 「いや、延期二回じゃ、授業のコマが足りなくなるだろ。」 「、、、なんで、そんなに運営側目線なんすか。」 カチ、カ、、、
つか、
「つか、先輩、そろそろちゃんと真面目にやってくださいよ!」 「「えー、塚原ががんばってくれてるからいーじゃんー。」」
もう、さっきから作業をしているのはオレばかり。 二人は夫婦漫才のようなテンポの良さで雑談しながら、窓の外のマラソン大会の準備を眺めているのみときたもんだ。しかもたぶん、こいつら二人つき合ってる。超うぜえ。本気でうぜえ。 昼休みもそろそろ終わり、さっさと終わらせて着替えに行かないと間に合わないっつのに。
二人に頼るよりも、自分が手を動かした方が早そうなので、イライラしつつも作業を進めていると、二人が声を揃えて立ち上がった。
「「あ。綿貫先輩だ。」」
その名前にピクリと反応して窓の外を見てみれば、中庭の横を、ジャージを着た綿貫先輩が通りかかったところだった。向かっているのは職員室の方向。着替えるのも早いし、何か頼まれごとでもしているんだろうか?
綿貫先輩は、夏前まで生徒会にいた3年生。代替わりしてからはあまり会うことはなかったが、書記だった彼女が残していった大量の議事録には、彼女の生真面目な一面を伺い知れる美しい文字が並んでいる。毎日一度は見るその文字を、読みやすいという一点でオレはとても好ましく思っていた。読みやすい、つまり仕事がしやすい。それだけのはずなのに。
「塚原くんは、字が汚いわねえ。」と苦笑いでオレの板書を眺めていた、 あの大人びて涼しげな眼差しを。頬杖をついた左手の美しい指先を。
その文字を見るだけで、どうしても思い出してしまう。
「綿貫先輩、ジャージ似合わないわねー。」 「だよなあ。つか、あの人、走ったりできんのかな?どう考えても見学っぽいイメージ。」 「あれえ?でも中学は陸部だったような気がする。」 「へえ、お前同中だったんだ。じゃ、速いのかな?昨年はどうだったっけ?」 「そういや昨年は見学だったわ。いつものニヤリ顔で"がんばってねー"って声かけられて、イラッときたから覚えてる!!」 「ほら見ろ。つか、綿貫先輩のニヤリ顔、見てえ!あれ超好き!!」 「うっわー、どMだよね、あんた。」 「、、、あのー、もうそろそろ、ほんっとに手伝ってください。」 「「あ、ゴメン、ゴメン」」 「あと、これだけ閉じたら終わりなんでお願いします。オレ、先に半分運んできますんで。」 「お。さすが塚原。たよりになるー。」 「・・・・・」(お前らは頼りにならな過ぎだ)
いよいよ時間的に厳しくなってきたので、勝手な事ばかり喋っている二年二人に残りのホチキス作業を任せ、出来上がった冊子を職員室に運ぶ作業に移る。
もしかしたら職員室前で綿貫先輩とすれ違うかもな、なんて思ったり。 早足になってる自分に気がついたり。 単に時間がないからだって、言い聞かせてみたり。
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