14 バンパー
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記憶の中から蜃気楼のように溢れ出した夏の暑さにグラッと揺らいだ身体。 それを支えるかのように二の腕を掴まれ、ヤマケンの怒ったみたいな静かな声で我に返った。
「おい。大丈夫か?真っ青だぞ。」 「、、、え?あ、うん、、、大丈夫。」
そして、歩道にギリギリまで寄せて停車し、サイドミラーを畳んだ青い車から出てきた人を見て、グッと握った汗ばんだ手のひらをほどく。
違う。彼じゃない。
自分でもビックリするほどのネガティブオーラから、間一髪で逃れられたことに感謝しつつも、まだまだ気は抜けない。
「さやかちゃんじゃん。久しぶり〜。」 「、、、あ。後藤さ、、、ん?」
中から出てきたのは、彼ではなく、彼の友人でちょっと怖い印象しかない「後藤」という男だった。
後藤はわたしを値踏みするような遠慮のない目つきでジロジロと見た後、その視線を隣に立っているヤマケンに移した。
「ね、さやかちゃん、誰そいつ?」 「え、誰って、、、」
ちらっとヤマケンを見ると、心底不愉快そうな顔で後藤を見ている。 二人とも同じお坊ちゃんタイプではあるけれども、ヤマケンと後藤ではまるで雰囲気が違う。同じ学年、同じ学校にいたとしてもまず仲良くはならないだろう。
困惑するわたしの返事を待たずに、後藤はベラベラと喋り出した。
「俺さー、佐久間がさやかちゃんと別れたって聞いて、ずっと気になってたんだよね。」 「はあ。」 「なんか、街中で見かけたらすっかり派手なギャルになっちゃってるしさー。」 「・・・・・」 「あいつのせいでさやかちゃんが落ちてくのとかさ、見てらんないってかさ?」 「あの、、、」 「で、そいつ、誰?まさか新しい彼氏??やめとけよそんなヒョロッとした男、」
横で、ヤマケンの何かがブツっと切れた音がした。(ような気がする) ヤマケンはガスッと勢いよく車のバンパーを蹴ると、不機嫌そうな顔のまま「おい、サヤカ、行くぞ。」とわたしの手を掴んで、後藤の横を通りすぎようとした。
が、もちろん、そんなことをして黙ってる相手でもないわけで、、、
「あ?おい、ちょっと待てよ。」 「はあ?うぜーんだよ、おっさん。どいてろよ。」 「あのさー、この車、友達からの借り物なんだよねー?女の前だからってあんまり調子乗ってじゃねーぞ、こら。」
もう、なんというか一触即発というか、もうすでに大爆発中というか。 後藤が少ないモーションでヤマケンに拳を叩き込もうとしたのに気がつき、反射的に二人に割って入る。
だって、これはわたしの元カレ絡みの話なのだし、やっぱりヤマケンには関係のないことだから、わたしが代わりに殴られるべきなんでしょーね、と。
ああ、でも絶対に痛い。これ、痛いよ。 ギュッと目をつぶって衝撃に備えていると、耳元でバスッという鈍い音がした。
え?
目を開けてみれば、後藤の拳と、わたしの顔の間に鞄が差し込まれていたわけで。その鞄の持ち主は、いつもの見慣れたヘラヘラとした笑顔ではなく、明らかに怒っていた。
「おい、てめー、オレの連れに何やってんだよ?」 「と、トミオくん?」
そこから先は、あっという間のことで、何が何やらわからなかった。
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