オトノツバサ | ナノ



13 エンドレス
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母さんの仕事は一段落したものの、山口家の奥様と、お勉強会と称したエンドレスなお茶会が始まりそうな感じだったので、わたしは先にお暇することにした。

「あら、一人で大丈夫?車呼びましょうか?」
「お気遣いありがとうございます。明るい道でしたし、駅まで全然歩ける距離ですから大丈夫です。」
「そう、、、あ!そうだわ、駅までお兄ちゃんに送らせましょ。ね、そうしましょ!」

わたしの「とんでもないです!けっこうですから!!」という心からの本音を遠慮と勘違いした奥様は、二階に向かってパタパタと小走りで走って行ってしまった。

えー、マジですか、、、

かくして、相変わらずな無愛想顔をしたヤマケンを連れて、無言で駅まで歩くこと約10分。苦行のような重苦しい時間から、ようやく解放されようかというそのときに、後ろから車のクラクションを鳴らされビクッと身体が跳ね上がる。

「ああ?なんだ、こっちは歩道歩いてんだろーが。」

完全にケンカ腰なヤマケンを苦笑いでなだめつつ振り返ると、そこには、あの青い車があったわけで。



どうして。


心臓が一気に早鐘を打ち始める。

身体の奥からは、あの夏にわたしを支配したどす黒い気持ちが、かさぶたをはがした傷口から血が出るかのように、どんどんと吹き出してきた。茶色く乾涸び、すっかり治っていると思っていた傷口だというのに、出てくるのは真っ赤な鮮血。

大好きだった!大好きだったのに、わたしを裏切った!!あんな、あんな派手なだけで綺麗でもなんでもない、うるさそうな女!!!でも、わたしは負けたんだ。つまり、わたしはあの女以下だ。悔しい。情けない。恥ずかしい。

ちがう、ちがう!大事なのはそんなことじゃない。何よりもあの人が隣にいないことがツライ。

そんな女に流されるような男は、こっちから願い下げだなんて強がって。威勢良く啖呵切って。車のドアをバタンと閉めて。でも、本当は追いかけてきて欲しかった。必ず追いかけてくるって、なぜだか知らないけれども思い込んでいた。だって、映画でも、漫画でも、こういうシーンでは追いかけてきてもらえるものじゃない?

ああ、違う。追いかけてなんてもらえない。だって、わたしは、あの女以下だもの。

もう、明日着る服さえ決められない。何がしたいのかもわからない。あのポッカリと何かが抜け落ちたような喪失感。首筋からじっとりと汗が流れて行く感覚を思い出す。そうだ、暑い、暑い夏だった。わたしは、なんて空っぽな人間なんだろうって。たかが恋愛に失敗したくらいで、この世の終わりのような気分だった。たかが恋愛?でも、それがわたしの全てだった。なんてくだらないんだ。なんてくだらない人間。

思い出した。

わたしは、吐き気がするほど、自分が嫌いだ。


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