オトノツバサ | ナノ



12 デパート
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華道にはいくつか流派があり、それぞれに違う解釈のもと花を生けている。うちの実家がどの流派に属すのかは知らないけれども、小さい頃から慣れ親しんできたお花は、デパートでの展覧会で見るような前衛的なものではなく、どこまでも自然との調和を意識した物だった。

ゼロから自我を主張し構築していくのではなく、無数にある花材の中から柔軟に草木の持つ性情に寄り添い、選び取り、組み合わせ、それによって自らの感情や世界を表現する。
それが花を生けるということだ。

って、完全におばあちゃんの受け売りだけれどもね?

結局、ヤマケンがブツブツ文句を言いながら重い花器や、バケツを運んでくれたおかげであっという間に準備が終わってしまった。正直、一人だとしんどかった。助かったー。

先に帰る?と母さんに声をかけられたので、「たまには見てく」と、邪魔にならない場所を物色していたところ、奥様がお花全体がよく見える二階の踊り場に椅子を用意してくれた。

「しっかり勉強なさってね。」なんて微笑まれてしまったりして、きっと誤解されてるんだろうなあ。わたしはもう門下生でもないし、ただの荷物持ちで来ただけなんだけど、、、

ドラマで見る豪邸みたいな玄関ホールに母さんが淡々と花を生けていくのを二階の踊り場から見下ろしていると、ガヤガヤといろんな業者が次から次へと出たり入ったりしていく。大規模なホームパーティーでもやんのかな?母さんの作品も、だいぶ華やかだし、大きさも相当なものになりそうだ。

「なんか、うちの病院の後援会だか婦人会だかのパーティーをやるんだとさ。」

背後から気配を感じて振り返ると、病院の御曹司様が階下の状況を説明してくれたりして。
あまり興味もないので「へえ」と生返事を返すと、ヤマケンはスッと隣に進み出て、手すりに寄りかかり頬杖をついた。

「あんたもやんの、あれ?」

そう言って、あごで階下の母さんを指す。

「ううん。中学上がるときに、辞めた。」
「へえ。」
「なに、その生返事。興味ないなら聞かないでよ。」
「あんたの、マネだよ。」

くっそう。いちいちムカつくぜっ。

って、そういえばヤマケン。失恋。したんだよね?
ああ、それについて聞きたい。根掘り葉掘り聞きたいったら、聞きたい。
でも、これは聞いちゃダメだ。三バカから聞いたんだけれどもーなんて、下世話に話題振るほどヤボな人間じゃないですよ、ええ、、、、、

ああ、でも気になる!!聞きたい!!!

ムカついた勢いでヤマケンの顔を睨みつけたものの、その後はウズウズとワイドショー的な欲求が満ち満ちてくるのを抑えるのに必死だ。

「、、、おい。あんた、頭の中がだだ漏れだぞ。」
「え?」
「どーせ、あいつらからいろいろ聞いてんだろーが。」
「う、、、」

聞いてます、聞いてますとも!ヤマケン様があの松揚の二つくくり女子に振られたって聞いてますとも!!

「、、、あの、母さんが持ってる枝。」
「は?」
「あれが、人の枝。」
「なんだそれ?」
「それで、左に伸びてるのが天の枝。下の手前に伸びてるのが地の枝。」
「・・・・・天地人?」
「そうそう。でも、一番高い枝が"人"だなんて傲慢よね。”自ら天地の主となってこれに臨む”ってことらしいわよ?、、、ってなことを黙々と考えてまし、キャッ!」

話の途中だというのに、上から後頭部を容赦なく掴まれ、ぐわんぐわんと左右に振られる。

「嘘ばっか言ってんじゃねーよ。今、全然違うこと考えてただろ?」
「もーう、何すんのよっ!離してよっ!」
「オレは、そういう余計な気使われるのが一番嫌いなんだよ。あいつらから聞いてんだろーが?あ?」
「あー、もう、聞きました!聞きましたよ!!あの子に振られたんでしょ!?」

パッと頭を離されたので、ぐしゃぐしゃになった髪を直しながら恐る恐る上を見上げると、やっぱりいつも通りに腕を組んだヤマケンが、人を見下す目線で見つめてる。こいつ、ほんっとに失恋したんかな?でも、したんだよな。

「えーと、、、元気だしてね?」
「だから、変な気、使うなっつの。」
「いやあ、あの、、、ヤマケンくらい自信満々な人でも振られたりすんだね!ビックリしたわ。」
「、、、おい、あんた、もうちょっと考えてからしゃべれよ。」

頭をパシンとはたかれたので、もう一度髪をなでつける。ああ、もう、ボサボサじゃないよ。
だいたい、あんたが気を使うなって言うから、正直な気持ちを述べたっつーのに。ちぇっ。



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