オトノツバサ | ナノ



02.5 音羽女子高等学校文化祭。
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「なんで講堂なんていかなきゃなんねーんだよ。」
「うっせ。だまれヤマケン。これはオレに課せられた使命なの!!」

いつになく前のめりなマーボに引っ張られながら、後ろからトミオに耳打ちされる。

「こないだの合コンでさ、文化祭の演奏会、ヤマケンも連れて見に行くって約束したらしいんだわ。」

こないだの合コンだあ?
、、、あ、あれか。オレが行かなかったヤツか。(迷子で)

「はあ?オレ狙いの女なのに、なんであいつが必死になるわけ?」
「そこらへん女の子はうまいんだよな。"今度は四人で来てね!"だそうだ。」
トミオが苦笑いしながら、「ヤマケン狙いだと気がつかないマーボと、したたかな彼女の笑顔のためにも諦めろや。」と、後ろからグイグイと押してくる。

ったく、素人の演奏するクラシックなんて(しかも高校の文化祭での出し物だろ?)、正直なんの興味もないんだが、ここは仕方ない。校内を歩き回るのも疲れてきたし、休憩がてら行ってやることにする。別に、合コンの女がどんなだか気になってるわけじゃねえ。断じて。

ギャーギャー騒ぐマーボ達に引きずられながら、音羽女子高等学校、通称「音女」のシンボルにもなっている音楽堂についた。パイプオルガンまでついた本格的な建物で、外観も有名な建築家によるものらしく、まあ悪くない代物だ。お嬢様校らしく、けっこうな額の寄付金が集まるんだろう。

中に入ると、ちょうど合コン相手の出番だったらしい。
肩を出したロングドレスの女が、ステージ中央のピアノに向かって歩いている途中だった。

「おおお!アンナちゃんいーねっ!お嬢様!!って感じ!!!」
大興奮のマーボの肩をガシッと三人で掴み、近くの空いてる座席に座らせる。

「バーカ、うるせーんだよ。みっともねー真似すんな。」
低い声で諭しながら自分も横の座先に座り、足を組んでステージを見上げると、ちょうどこちらに気が付いたらしく、合コン女が照れ笑いを浮かべてはにかんでいる。

ステージ上で照れ笑いって、小学生のピアノの発表会かよ、、、ま、顔はかわいい。大人しそうで性格も良さそうに見えるが、マーボを使ってオレを呼ぶあたり、したたかなのは間違いない。このタイプはめんどくさいことになることが多いから、パス、だ。

始まった演奏は、まあ、文化祭の代表に選抜されてるだけあってそこそこ聞けるものだったが、可もなく不可もなくという感じだった。
ま、ピアノの演奏の良し悪しなんて、元から知らねーけどな。

「あ、オレ、次の子のがタイプかも!音楽科粒揃いじゃね?」
トミオがステージ袖を指差して耳打ちするので、一応(一応、だ)そっちを見てみると、袖にはヴァイオリンを持った、青いドレスの女が立っていた。

「緊張してんのかな〜、かっわいいな〜。」というトミオに、
「どれどれ?あ、いいね!キリッとして気の強そうな子、俺好きよっ!」とマーボ。

お前らは、女なら誰でもいいのか、、、と呆れつつ、一応チェックをいれてみる。(一応、だからな)

緊張してるというよりは、緊張感を持った顔つきだ。顔もまあまあ。愛想はなさそうだが、頭は悪くなさそう。品もいい。ただ、あんまり意思の強い女は、それはそれでめんどうだからなあ。などと値踏みをしてるうちに、合コン女の演奏が終わり、青いドレスの女がステージに出て来てお辞儀をした。

司会が名前を呼ぶ。
「プログラム八番。成田 愛。」

シーンと静まり返った講堂内に、
シュッとステージ上の彼女の息を吸う音が聞こえ、

そして、

始まった演奏は、圧巻だった。







その日のプログラムがこれで終了したらしく、周りの観客達が、ざわめきながら講堂を後にする。

「オレ、先帰るわ。」
「おお、帰れ帰れっ!アンナちゃんには俺がいるからなっ!」
(((いや、お前絶対振られるから。)))
「えー、ヤマケン、最後の子とか、どうよ?声かけにいかね??」
「いや、やめとく。」
「なんだなんだ?お嬢様オーラにビビってんのかあ?」

ニシシと笑い肩を組んできたトミオの手を、「そんなんじゃねーよ。」とはたき、ヒラヒラと手を振って三人と別れた。

奇跡的に校門にたどり着き、タクシーを拾って乗り込んだ。ドッカリと後部座席に埋まりこむように座り、フーッと息を大きく吐く。

知らず知らず握りしめていた手のひらを開いて見ると、じっとりと汗をかいている。
感受性の鈍いヤツらは、呑気なもんだよな。

そうか、オレは、感動したんだ。
あの演奏に。







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