オトノツバサ | ナノ



11 スペース
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想像以上にお屋敷らしいお屋敷の前にある駐車スペースに車を止め、花材を下ろそうとトランクに手をかけると、「まずは挨拶しにいかないと。」と母さんにたしなめられた。

確かに。そうだわね。

着物のわりに早足で歩く母さんの後ろをついていき、馬鹿みたいに重厚な造りの扉の前でインターホンを押すと、中からとても上品な女性が迎えてくれる。

「本城先生!このたびはご無理を申し上げまして、本当にすみません、、、」
「あら、山口さんのお願いごとですもの。いつでも参りますわよ?」

山口さんと呼ばれた奥様と、猫をかぶった母さんとの間で、あはは、うふふ、と社交辞令が交わされる中、今か今かと一番弟子のポーズを取る準備をしていたところ、「あ、これは荷物運びのために連れて来た娘のさやかです。」と至極簡単に紹介されてしまった。

くそう。やっぱりお弟子さんのフリは無理だったか。

それにしても、広い。何この映画みたいな階段。何このシャンデリア。つか、何このソファ。玄関にソファ?どういうこと??もう、なんだか玄関に住めそうだわ。

延々と続きそうなハイレベルな社交辞令の応酬をBGMに、ぼんやりと家の中を値踏みしていたのだが、二階から降りてきた人影に向かって奥様が声をかけたところで我に返った。

「あ、ケンちゃん、ちょうど良かった!ちょっと先生達が荷物運ぶの手伝ってあげてくれる?」
「あら、いいんですよ!うちのさやかが運びますから!」
「さやかさんみたいな可愛らしいお嬢さんに、そんなことさせられませんよ!うちの息子が運びますから、こき使ってやってくださいね?」

ほう。山口家の息子とな?大病院の跡取り息子がどんな面か拝ませてもらおうか!さあこい、ケンちゃん!!と、好奇心丸出しの面持ちで上を見上げると、そこには見慣れたキツネ顔。

山口、、、賢二で、ヤマケン、か。そうだった。

ヤマケンは階段の踊り場で母さんや奥様からは見えない位置に立ち、超微妙な顔でこちらを見ている。

ですよねー、、、いや、わたしだって、別にあんたんちだってわかってたらノコノコ来てないから。ほんと。知らなかったんだってば。って、心の中でいろいろ言い訳してみるものの、相手に伝わるわけもなく。

一階まで降りて来て、母さんと奥様の前に立ったヤマケンは、さっきまでの微妙な顔はどこへやら。見たことないような爽やかな顔で「お手伝いできることがあれば、なんでも言ってください。」ですって。もう、それはそれは育ちのいいおぼっちゃま、そのもの!あんたいったい誰よ?イラッとくるわあ、この外面番長が!!

「じゃあ、お言葉に甘えて、、、さやか!賢二さんに手伝ってもらって準備を始めてちょーだい。」
「はい。お母様。」

今度は、母さんの「素晴らしい息子さんをお持ちでー」というヤマケンほめ殺しをBGMに、車のキーを片手に玄関を出ていく。

バタンと扉が閉まったのを合図に、お互い被ってた猫をバッサリと脱ぎ捨て、「あんた、何やってんだよ?」「そっちこそ、何よ、あの爽やかな笑顔!」「あんたこそ、"はい、お母様、”って柄かよ?」と噛み付き合いながら車まで歩く。

くっそう。やっぱりさっきのおぼっちゃまは幻か。まったくもって、いつも通りじゃないのよ!!!!

でも、ヤマケンがいつも通りで、ちょっとホッとした。


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