オトノツバサ | ナノ



10 アシスタント
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ヤマケンがふられたらしい。

これは、愛に知らせるべきか、知らせるべきじゃないのか、、、
昨日、学校帰りに3バカから聞いた衝撃の事実を、一夜明けた今日になってもズルズルと引きずっている。よく考えてみればわたしにはなんの関係もない話なんだけれどもね。

今は、土曜日の昼下がり。ベットの上で寝転びながらノートパソコンを起動して、メーラーを立ち上げたところまでは良かったんだけれども。その先、どうしたもんかと悩み中。

と、そこで、「さやか!ちょっと来てくれるー?」と、階下で母親の呼ぶ声が聞こえたので愛への報告は保留にすることにした。

トントンとリズミカルに階段を降りていくと、玄関先で着物を着てすっかり臨戦態勢の母さんが困り顔。

「どうしたの?」
「ねえ、今日って何か用事ある??」
「別にないけど。」
「悪いんだけどちょっと仕事手伝って欲しいのよ。思った以上に花材の量が多くて運べないの。もともと一人で行くつもりだったからアシスタントの子の都合もつかないし、、、」
「花材運べばいいだけ?」
「そりゃそうよ。他に何ができるの?」

ですよねー。
わたしにできることなんて力仕事くらいなもんです。

うちの母さんは、花を生けることを仕事にしている。いわゆる「華道の先生」ってヤツだ。おばあちゃんがまだまだ現役なので、次期家元候補。もちろんわたしも、小さい頃からお稽古をさせられていたけれども、何事も白黒はっきりつける性格のおばあちゃんに、「さやかは向いてないから、もしも大好きってほどじゃなければお稽古辞めていいよ。」と中学に上がるときに言われ辞めてしまった。

それまで、周りの子供に比べたらぶっちぎりで上手だったし、もう少し大きくなれば周りのお弟子さんと変わりないくらいのものを生けられると思い上がっていたわたしには、正直、おばあちゃんの言葉はショックで。もうすっかりやる気をなくしてしまったのだ。

今になってみれば、あのとき辞めて良かったと思う。確かに、わたしには才能がなかった。小さい頃から母や祖母の作品を見ていたので、なんとなくそれっぽいものを作るのがうまかっただけ。きっと、あのまま続けていたら、今頃ものすごい挫折を味わうことになったはずだ。

「で、今日はどこでお仕事なの?ホテル?料亭?」
「個人宅よ。お母さんの生徒さんのお宅の玄関ホール。」
「へ?個人宅の玄関に、ホール?」
「なんかねえ、ご主人がどっかの病院の院長先生らしいわよ?」
「へー、じゃ、お屋敷だ!行きたい行きたい、ちょっと着替えてくるから待ってて!」
「くれぐれも失礼のない格好でね。立ったり座ったりが多いから、スカートは長めよ。いい?」
「はーい。」

ようは、あれでしょ?上品な格好してこいってことでしょ?任せとけっての!
渾身のお嬢さんコーディネイトに、母さんから渡されたエプロンをして、車の助手席に乗り込む。後部座席を倒してフラットにした部分には、下処理をした大量の花材が積まれている。うわー、これが個人宅の玄関ホールに、、、すごいな。きっとこれは、相当大きなお屋敷だぞ。お金持ちのお宅訪問!テレビみたーい。

一般の女子高生が、今日だけは華道の先生の助手だ。どうせ向こうの人には、わたしが誰だかわからないんだし、一番弟子みたいな顔して挨拶してやろう。

こういうのって、ちょっとワクワクする。


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