オトノツバサ | ナノ



08 シュート
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一通りのメニューをこなし、河川敷沿いの広場に戻ってくる。首にかけたタオルで汗をぬぐい、一息。ポケットから小銭を取り出して自販機でポカリを買う。

さっきまで、わたしたちと川釣りの釣り人しかいなかった広い河川敷には、犬の散歩やらウォーキングをする年配者やら、チラホラと人影が見かけられるようになってきた。

ベンチに座っている菜々実に飲みかけのポカリを渡すと、グビッと一気に飲み干し、ポイッとゴミ箱に放った。綺麗に放物線を描いてゴミ箱に入る空き缶。

「お、ナイッ、シュート。」
「あーりーがーとー。ねえサヤカー、この川って、なんか釣れるのかなあ?」

ふと川の方を見ると最初に来たときと同じ男の子が釣り糸を垂れている。顔は遠くてよく見えないが、服装からして同い年くらいだろうか。

「さあ?メダカくらいはいそうだけども。あとは鯉とか?」
「ふーん、、、わたし、ちょっと聞いてくるっ!」

菜々実はベンチからスタッと飛び降りると、川岸の岩場で釣りをしてる男の子達の方に駆け寄って行った。

「えー、ちょっと待ってよー!」と後に続いて岩場へ歩いていくと、菜々実は背の低めの猫目な男の子に声をかけ、釣れた魚を針から外すところを見せてもらっているところだった。

「あのねー、フナが釣れるんだってさー。」
「へえ。フナって食べれるの?」
「アハハ、食べれないよ。釣ったら離すの。」

そう言って、男の子が笑いながら魚をソッと川に戻すと、釣られたことなど忘れたかのように、スイーッと泥で濁った川の中へ消えて行く。

「ふーん。食べないのか。」と、川岸ギリギリに座って菜々実と二人で魚を見送ってると、後ろから聞き覚えのある声が。

「お!なになに、ササヤン逆ナン!?」
「えー、違うってー。何釣れんの?って聞かれただけ。」

振り返ると、、、やっぱり。

「トミオくんが、、、釣り?」
「お、サヤカちゃんじゃん!そっちこそ、何その格好。」
「、、、自主トレ中。」
「まさか運動部!?マジでえ!?似合わないような、むしろピッタリなような、、、」

こんな早朝に、こんなところで会うとは思わなかった。
トミオくんが早起きをして釣りをしてるだなんて、そっちの方がよっぽど似合わないような、、、そんなことを思っていると、さっき魚を見せてくれた男の子がうちらを交互に見ながら不思議そうにしている。

「あれえ?トミオの友達だったの??」
「そうそう、音女のサヤカちゃん。かわいいっしょ?」
「どもども。サヤカです。」
「菜々実でーす。」
「ナナミちゃん!俺会うのはじめてだよねえ?彼氏とかいんの??」
「ちょっとー、こんなとこでナンパしないでよね、、、」

愛想のいい菜々実がついでに笑顔で自己紹介すると、早速食いつくトミオくん。まったく、油断も隙もあったもんじゃない、、、

「オレ、笹原。ササヤンでいーよ。」
「えっと、ササヤンも海明?」
「え?学校は松揚。って、オレ、サヤカちゃんどっかで見たことあるかも、、、」
「え!ほんとに??」

ササヤンはしばらく考えてから、ポンと手を打つ。

「そーだ。期末のとき、ハンバーガー屋でトミオ達と一緒にいなかった?」
「あ、いたいた!って、よく覚えてたね。」
「ほら、ツレの子が手振ってたっしょ。水谷さんに校外で友達がいるなんて、レアだからねー。」

そっか、例の水谷さんの友達か。変なところで繋がるなあ。ふと、こないだのヤマケンのことを思い出して、ちょっとだけズキッと後ろめたい気持ちがうずく。

とそのとき、横からジーッと見つめる視線を感じてそっちを見てみると、トミオくんの顔が近い。

「っと、うわあ、何?」
「いや。なんか、いつもと違うなーと思って。」
「そりゃそーでしょうよ。スッピンよスッピン。髪も巻かずに結んでるし。」

そのやりとりを聞いて、ササヤンも顔を覗き込みにくる。

「へえ。化粧なんかしなくても十分かわいーのにね?」
「お。言うねー、ササヤン。」

茶化して笑い返しながらも、ちょっとガックリきちゃう。
そうそう。男の子は、そういうとこ鈍いからねー。あんまり差がわかんないか、むしろ毛嫌いする子も多い。つまんないことに。

「いやいや、いつもの気合い入ってるサヤカちゃんは相当かわいーから。」
「へー、そーなんだ。」
「そそ。女の子の化粧とかって、オレ好きだわー。その可愛くありたいっていう姿勢がまず可愛いくね?」

、、、ちょっとビックリした。

「あれ?オレ、なんか変なこと言った?」

ブンブンと首を横に振る。

ううん、言ってない!わたしたち女子の努力、しっかり汲んでくれてありがたいっス!!

その後、二人に教えてもらって初の釣り体験をしつつ、お約束かのように菜々実が川に落っこちたりしつつ、、、トミオくんの株がグーンと上がった一日でした。


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