オトノツバサ | ナノ



03 フラスコ
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彼は、高校一年の春に出会った大学生で、好きで好きで、本当に大好きで。何をするにも彼が全ての指針であり、法律であり。彼の言葉の一つ一つに影響を受けて右往左往し、嬉しいことも、悲しいことも、全てが彼に関することだけだった。

彼がわたしを最悪な方法で裏切ったと知ったときには、それこそこの世の終わりみたいな気分で。

「わたしの隣にいてくれないなら、死ねばいいのに」と本気で思ってた。

16歳になったばかりの小娘が、生死を口にするなんておこがましいとわかっているけれども、そのときは、本気でそう思っていたんだ。嘘じゃない。


「ま、今となってはどこが好きだったのかすら、ワーカリーマセーン。」

渡り廊下でパックジュースを飲みながら、誰に言うわけでもなく独り言。

一年の頃は、愛と二人で中庭を見ながらぼんやりしていた場所。愛が留学してしまってから、ここはわたしだけの特等席になっている。

「あ、いたいた。またこんなところで黄昏れちゃってー。」

菜々実がやってきて横に座ると、わたしの顔を覗き込む。

「、、、ねえ、成田さんいないとやっぱりさみしい?」
「ええ?やだ、何言ってんのよ。」
「だってさー、クラスも部活も違うのに、サヤカってば暇さえあれば成田さんとこ行ってたじゃん。」
「そうだっけ?」
「そうだよー。それこそ、彼氏かよ!ってくらい。けっこうさみしいよねーって、女バス一同思ってたのよ?」
「へえ。知らなかった!」

さみしい思いをさせてゴメンね〜!!とかなんとか大げさに言いつつ、菜々実にハグ。二人でケラケラと笑い合いながら、次の授業に向かう。次は化学なので理科室に移動だ。


ふーん。そうだっけ?わたしそんなに愛のとこばっかり行ってたっけ?でも確かに、夏の終わりに彼と別れてからは特に、彼女に対する執着心みたいなものが増えたような気もする。

もともと依存体質、なのかな?

少人数の班に別れて実験を行うのをぼんやり見ながら、ポケットからiPhoneを取り出し、こっそり「恋愛依存症」と検索してみる。

「自分に自信がなく、能力もないと感じているので、
それを持っている自立した異性に魅力を感じ、交際が始まります。
しかし、恋愛依存症者は自分に自信がない(自己評価が低い)ために、
すぐに相手を失う恐怖(見捨てられ不安)が湧き上がってきて、
嫉妬深くなり相手を束縛しようとしたりコントロールしようとします。」

ほっほう。

、、、キビシ目に見たとしても、たぶんわたしは美人の類いだ。
背も高いし、スタイルもまあまあだと思うし、
運動だってできない方じゃないし、頭だって悪くない。友達も多い。
まあ、多いとはいっても、固定の仲良しを作ってずっとつるむようなタイプではなかったけど。

そう。自信は、、、なくはないはず。
だって、それだけの努力はしているもの。

愛がいなくなった今、わたしはまたそういう対象を探して、執着しようとするんだろうか?

班の子に声をかけられ慌てて携帯をポケットにしまうと、回って来た実験のフラスコを、説明も話半分に受け取る。

なにこれ?え?匂い?かぐの??


目の前がグラッと揺れて、隣にいたクラスメイトの叫び声が聞こえる中、わたしは意識を手放した。


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