53 left wing
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受付に呼ばれ、花束を抱えて戻って来た彼女は、なんだかいつも以上に清々としていた。なんというか、そう、迷いが晴れた感じ?
てっきり、例のイケメンくんから花束でももらったのかと、持って帰って来た花束に付いてるカードを女々しくもチェックしてみたりしたのだけれども、そんなこともなく。いったい彼女にどんな心境の変化があったのやら。20代も半ば過ぎ、30近いおっさんの俺には、思春期の少女の気持ちなど計り知れないわけで。
「ねえ、愛ちゃん。緊張してる?」 「いえ、あまり。それより早くステージに出たいです。」
ステージ袖で待機している今も、横にいる彼女の気持ちはまったくよくわからん。何をそんなに急いているのか、、、もうちょっと、初々しくガチガチに緊張とかして、可愛く「どうしよう?」とか言って欲しいんだけど。んで、「大丈夫だよ、俺がついてるよ」みたいな?ねえ??
って、まずそんなことは有り得ないわな。
というか、対ライブに限っては、この子の神経の図太さに脱帽だ。俺だって一応緊張してるんだけどなあ。もちろん、そんな風には見せないけれども。
司会者が曲目の紹介をしているのをぼんやり見ながらそんなことを考えていると、愛ちゃんに名前を呼ばれ、あわてて彼女を見下ろした。
「秋田さん」 「ん?」 「わたし、秋田さんの伴奏で弾くの、とても楽しいです。」
俺を見上げながらニッコリ笑ってそれだけ言うと、スカートの裾をひるがえし、ステージの中央へと出て行った。
、、、まったく。何を言うかと思えば、この子は。
フーッと大きくため息をつくと、彼女の後を追ってステージに出る。そんなこと、わざわざ言われなくてもわかってる。そういう風に弾いてんだよ、こっちは。
今から俺は本当に、君だけのために演奏をする。
君が、誰に向けて演奏をしていようと、だ。
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