オトノツバサ | ナノ



52 ブルーグレイの光沢
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第一部の終了後、ホール内の席に戻ると、元々興味があるわけでもないクラシックの演奏にすでに飽き飽きといった様子の4人。

「おせーよヤマケン。どこ行ってたんだよ。」
「迷子か?また迷子か??」
「ちげーよ。」
「おうちの用事はどうだった?何かあったの??」
「や、特に問題ない。」

質問攻めを適当にかわしながら、一番通路側の座席にどっかりと座り一息つく。

、、、一息つきたかったのだが、退屈している四人は「何かおもしろいことないの?」とばかりにオレの次の言葉を待っている。別に面白い話なんて、何もねーよ、、、あ、

「そういや、成田サンに会ったな。」
「え?愛に?、、、えーと、何か言ってた??」
「いや、特には、って、あー、おい、ジョージ!休憩時間だからってイルーナはやめろ、携帯の電源は切っとけ。」

そういえば、演奏をちゃんと聴いてろとかって言われたけどな。どちらかというと、オレよりこいつらに言ってくれ。

「なあなあ、愛ちゃん、どんな格好だった??」
「はあ?えーと、水色みたいなグレーみたいなドレス。」
「かわいかった?なあ、お姫様みたいだった??」
「そんなのかわいいに決まってるじゃない。今日の出演者の中じゃ愛がダントツよ!!」
「あー、もうめんどくせーなー。そろそろ出てくんだろ?自分で確かめろ。」

第二部開始のため、開演のブザーが再度鳴った。明るかった会場の照明が落ち、進行の女性の声が次の出演者の名前と曲目を告げる。

ほら、お前らのお姫様の登場だ。ちょっと年は食ってるが王子まで連れて、な。


ステージ中央にゆっくりと歩み出て来た彼女に、いつもの、オドオドとした控えめな様子はみじんもない。

一音も出していないというのに、強烈に感じる存在感。周りの全てを巻き込む緊張感がみなぎっていた。小柄で華奢な彼女によく似合った可愛らしいドレス。しかし、口の端に少し浮かべた微笑は、お姫様っていうより女王の風格だ。

そして少し後に、例のピアノ教師がまるで気負うことなく、飄々とした様子で出て来てピアノに譜面を置き、客席に向き直った。

特に合図をするわけでもなく、一度もお互いを確かめないまま、なぜかまったく同じタイミングで、同じ拍だけ、客席に向かって軽く礼をする。

二人の登場に客席からワッと拍手が沸き、スポットライトが彼女を照らす。上品な光沢を持つドレスの生地が、キラリと光った。

隣でサヤカが、感嘆のため息を漏らした。

「愛は、、、すごいね。」

ああ、そうだな。

ふと、昨年の秋の文化祭でのステージを思い出す。なんだろうか?あの時とは違った、この安定感。

チラリと後方にいるピアノ教師を見る。

やっぱり狂信的な従者がいると、パワーが違うもんなのか?それとも何かが、彼女の中で変わったのか。何にしろ、目が離せない。

まったく、、、オレががんばれなんて言う必要、まったくねーじゃねーか。

ぼーっとそんなことを考えながらも、彼女のことだけを見ている。
ただひたすら、彼女のことだけを。


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