50 五人もいる。
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開演のブザーが、こんなに神々しく聞こえたのは初めてです。
受付に花束が届いているから取りにおいでと言われ、楽屋からロビーに出ようとしたら、つい立ての向こうから聞こえる同級生の噂話。しかも、自分の。そして、追い討ちをかけるかのようにヤマケンくんが登場ときたもんだ。
うわーん、なんなのよ!いったいわたしが何をした!!
一人でいることが多いので「我関せずのマイペース型」と誤解されがちだけれども、人の目はとてもとても気になる方だ。 ましてや、好きな人の前で酷評されるなんて、どんな罰ゲームよ。あんまりだ。しかも「人気ねーな」とか笑われちゃってますよ、わたし。半笑いで。、、、もう穴があったらマグマまで潜りたい。
ハーッと安堵のため息をつき、とりあえずいつまでもいじけていられないので隣で立ってるヤマケンくんに声をかける。
「ヤマケンくんも早く行かないと、一部始まっちゃうよ?」 「や、走るのたるいから、一部はもういい。」 「うわあ。そんな理由で、、、」 「つーかさ、あいつら、あんたの友達なの?」
つい立ての向こうを指さしてヤマケンくんに聞かれ、なんと答えたらいいものか、、、って嘘ついてもしょうがないしな。もう、もちろん彼の目を見てなんてのは無理なのでうつむいたまま、かっこ悪いが正直に答えてみる。
「友達というか、クラスメイトというか、、、わたしあまり学校に馴染めてなくて、あまりちゃんと話したことない人も多いので、、、」 「ま、そーみたいだな。でもなんでそんなヤツらまでわざわざ聴きに来てんの?」 「あ、それは、二部に出るわたしの先輩方のファンらしくって、招待状が欲しいって言われて。」 「へえ。」 「うわー、、、なんか、もうすごい恥ずかしい!!!人望なくてスミマセン、、、」 「ま、いーんじゃね?人間関係は、量より質だと思うけど?」 「し、、、質なら自信あるよ!すんごい上等なのが、今もホールに一人来てる!!」
そうだよね?最高級に上等な女友達が、わたしにはいるものね??
なんだか急に嬉しくなって、パッと上を見上げると、ジッとわたしを見下ろすヤマケンくん。ああ、こんなに人を見下ろしてる姿が似合う人って、そうはいないなあと、バカなことを考えていると、ヤマケンくんが笑いながら聞く。
「ふーん、一人?」 「あ、違う!、、、五人!!」 「それはちょっと多いだろ。二人な、二人。」
ヤマケンくんは、あいつらと一緒にすんなよな、とブツクサ言いつつ、しゃがんでいるわたしの目の前に手を差し伸べた。
「ほら、受付。行くんだろ?」
細くて長い指。大きい、男の子の手だ。初めて予備校で会ったとき、授業中にこの手を眺めて、綺麗だなって。綺麗な男の子だなって思ったんだった。
急にいろいろ思い出して、泣きそうになる。
「なに?行かないの??」 「あ、、、行きます!」
勇気を出してその手に向かって自分の手をのばすと、ギュッと掴んで引っ張り上げられる。そして、見てるだけで寒みーんだよ、と自分の上着を脱いでわたしの肩にかけてくれた。
ヤマケンくん。 もう、わたしは泣いてしまいそうだよ。
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