オトノツバサ | ナノ



48 縦結びのリボン
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建物の外にある喫煙所から楽屋に戻ると、着替えを済ませた愛ちゃんが鏡に向かって髪を結っているところだった。

振り返りもせずに「あ、秋田さん、おつかれさまですー。」と、天然で業界人のような挨拶をする。なんか、この子の十年後が具体的に想像つくなあ。

と、ドアの横にもたれかかりながら、自分の髪型も一応鏡でチェックしてみたりして。ま、俺は寝癖がなけりゃいいか、、、

「そういえば、今回は愛ちゃん専属スタイリスト来ないの?」

こないだのライブのときには、彼女の兄が仕事の合間にわざわざ店までやってきて、髪から顔から、フルスタイリングを施して帰っていったというのに。

「あー、、、お兄ちゃん、相談なしに留学を決めたこと怒ってるみたいで。」
「あいつも大人げないなあ。」
「それ、ぜひとも本人に言ってやってください、、、うー、自分だとアップにするの難しいのに、もう!」

難しいと言ってるわりに、それほど長くない髪を手早くクルクルと巻き、ピンで留めていく。兄妹揃って手先が器用だ。
感心しながら見ていると、一通りセットの終わった愛ちゃんがようやく振り返った。

「あ、」
「え、何?」
「いや、そういう格好の秋田さん、初めて見たんで。」
「似合わない?」
「いえ?似合うし、すごい格好いいです。」

あまりに直球で褒められると、柄にもなく正装してきたことが急に気恥ずかしくなる。これだから子供は嫌なんだ、、、手持ち無沙汰で内ポケットから煙草を出そうとして、「ここ禁煙ですよ。」と怒られたりして。やってらんねーよ、くそう。

ふと、さっき入り口で会った、愛ちゃんの想い人の少年のことを思い出した。

「あ、そういえば、こないだの子来てたよ。」
「え?」
「ほら、海明の。」
「、、、そうですか。」
「あれ?今回は驚かないんだね。」
「今回は、自分で呼びましたから。」

シラッとそう言うと、彼女は立ち上がって、ドレスの背中についたリボンをキュッと結んだ。なるほど、それで気合いが入ってる訳ね。

が、その気合いはどうにも空回りしてるみたいだ。

「あー、愛ちゃん。リボン、縦になってるよ?」
「え!?え?ほんとに??あれれ??」

背中を見ようと、無理な体勢でギクシャクとする彼女がおかしくておかしくて、しばらくほっとこうかとも思ったけれども、まあ、かわいそうなので助けてやろう。

「しょーがねーなー。ちょっと、こっちにいらっしゃい。」
「お手数おかけしてスミマセン、、、」

シュンとなって素直に俺の前で背中を向ける。目の前には、白くて細い首。
縦になったリボン結びをシュッとほどくと、少しよけいに背中が見えてドキッとする。

いやいや、相手はまだ子供だ。彼女だって、俺のことを兄貴と同じようにしか思っていないからこそ、こんなに無防備、、、ムクムクと湧き上がる煩悩と戦いながら、背中に大きなリボンの蝶を止まらせる。

「はい。できた。でもこれ、変わったデザインのドレスだねえ、、、」
「伴奏が秋田さんだって言ったら、お兄ちゃんが用意してくれたんです。普通のロングドレスだと、チグハグになるだろうからって。」
「失礼な。俺だってスーツくらい持ってますよ。」
「ネクタイはないけど?」

振り向いて、うふふと笑う愛ちゃんに、ムッとしながら返事をする。

「そりゃ、オーケストラの人がするみたいな蝶ネクタイとかはないけどね?これだって、アスコットタイと言って立派な正装だよ??」
「え?そうなんですか??」
「わかってねーなー。ほら、見てごらんよ。鏡。こうやって並んでると、お似合いでしょ?王子様とお姫様みたいでしょ??」

と、愛ちゃんの頭をグイッと鏡に向ける。、、、が、どう見てもお嬢様とその執事といった様相。

愛ちゃんの背が低いのが、主な敗因だ。俺のせいじゃねえ。

「そうですねえ、、、お似合いかどうかは別として、、、」
「はいはい。もういいっすよ、」
「でも、スーツの秋田さんは王子様みたいです。かっこいいです。」

振り向いて上を向き、ニッコリ笑う彼女を。

このまま抱きしめてしまいたくなるのは、やっぱり俺がダメな大人だからでしょーか?


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