46 わしづかみ!!
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チャイムのような音が鳴って自動ドアが開くと、入って来たのは見慣れた4人組。
「「「おあ!!夏目ちゃ、」」」
と、いつものように叫びかけて、慌てて飲み込む三人。 はい、正解。よくできました。今こっちは、彼女じゃないにしろ女連れだかんな。
バッティングセンターに行く前に、昼飯を食って行こうとファーストフード店に寄ったところ、いつものハル達ご一行様と鉢合わせた。ハル、水谷サン、アホ女にチビ。
ああ、もうめんどくせーなと思いつつ、奥の席に座っている5人を置き去りに、番号札を持ってカウンターまで出て行くと、わざわざアホ女が食って掛かってきた。
「な、な、な、なんですか、ヤマケンくん!ミッティ達の邪魔をしようったって、そうはいかないんですからねっ!!」 「はあ?なんでお前にそんなこと言われなくちゃなんねーんだよ。」 「その目!そんな目でいくら見たってダメですよ!!」 「そんなことより、お前は進級で、き、た、の、かよ!!」
いつものようにグリグリと額を鷲掴みにしてやると、チビが「あのさー、夏目さん、今けっこう弱ってるからそのへんにしといてやってよ。」と間に入る。
「なに、弱ってんの?やっぱりダブったわけ?」 「ち、ちがいますよっ!!ミッティ達のおかげで追試はちゃんと受かりました!!」 「ええ、ギリギリだけどもね。」
水谷さんは相変わらずの冷静な口調でそう言うと、マーボ達が座ってる席をジッと見る。
「あれは、、、成田サン?」 「ああ。」 「あの人達とも知り合いだったのね、彼女。」 「まーな。」
と、アホ女までがそちらの席をチラチラ見ながら、ソワソワしている。
「なに?どうしたの?夏目さん。」 「や、ミッティ、なんでしょうねえ、あの可愛らしい女子二人組は、、、」 「あれ?気になるの?おかげで絡まれなくて済んで良かったじゃん。」 「ササヤンくんには聞いてません!!」 「お、あれだな!今カノを目撃してしまった元カノの心境ってヤツだな!夏目!」 「ハルくんには、もっと聞いてません!!しかも、全然違いますっ!!!」
すると、水谷サンに気がついたらしい成田サンが、こちらに遠慮がちに手を振り、水谷サンがそれに応えた。
「ええっ!?ミッティ、お友達ですか!?」 「ええ、まあ。予備校で一緒の成田さん。」 「み、ミッティにまさか、学校外で友達だなんて、、、」
アホらし。
「そいじゃ、またな。」
トレーを片手に、席に戻ると、ここにもソワソワした3人。はあ、、、アホらしい。
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「ねえねえ、愛。もしかしてヤマケンの好きな子ってあの子?めちゃくちゃ可愛いじゃん!!」
奥の席に座ってポテトをつまみながらカウンター前を見ると、美少女の前頭部を鷲掴みするヤマケンくんの姿が。
「えーと、違う、、、けど、痛そうだねえ。」 「女の子にアイアンクローって、ヤマケン、どんだけ、、、」
その横には、水谷さんの姿も。
少しだけチクリと痛む胸をギュッと掴んで、できるだけ明るい声で言ってみる。
「ほら、前に見たことあるでしょ?あの二つくくりの女の子。」 「え?あっちなの??ほんとに???」 「うん。」
うん。ほんとに。
ふと、水谷さんと目が合ったので、思い切って手を振ってみると、いつもの無表情で彼女が応えてくれた。
、、、よし、いける。
今日は大丈夫。きっと大丈夫。 さっきの春一番が、わたしのネガティブな気持ちを吹き飛ばしてくれる。
逃げずに、もっとちゃんとヤマケンくんにこないだのお礼を言うんだ。 そして、今週末のヴァイオリンの発表会に誘うんだ。 わたしの、日本で最後の演奏を聴いてもらうんだ。
ふーっと大きく息を吐いてから、自分に言い聞かせるかのようにサヤカに言う。
「でも、大丈夫。それと、これとは別の話!」
ビックリした顔のサヤカにクルッと背を向け、なぜだかさっきからソワソワしっぱなしの三人組に話しかける。
「あのね、今週末なんだけどね、、、」
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