45 春一番
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結局、昨日は電話もメールもしなかった。定石通り、向こうからの出方を待つことにしたわけだが、案の定、成田サンからは音沙汰無しだ。
かったるいだけの終業式が終わって、ロッカーの残りの荷物を片付けてから帰ろうとすると、ニヤニヤしながらマーボが話しかけてくる。
「おーい、ヤマケン、お前はどーすんの?」 「あ?」 「オレら、今から音女に行くよーん。」
ただでさえ能天気な三人が、朝から浮き足立ってると思ってたら、これか。
「音女?なんで?」 「ほらほら、世の中にはホワイトデーってもんがあってだなあ、、、」 「はあ?もうとっくに終わってるだろーが。」 「いやいや、サヤカちゃんたちが今日がいいって言うからさ〜。」 「それ、完璧、後回しにされてんぞ。」 「「そんなことねーって!!」」
ホワイトデーから一週間も待たされているっていうのに、本当にこいつらアホだ。 とそこで、後ろの席でくつろいでいたトミオが口を挟んできた。
「いーじゃん。一緒にこいよ、ヤマケン。」 「はあ?なんでオレが行かなくちゃなんねーんだよ。」 「帰りにバッティングセンター寄ってこうぜ。それとも、なんか用事でもあんの?」 「いや別に、、、、、や、行く。」
まだ昼前。この時間だと、もうコートもいらないんじゃないかってくらいに暖かい。少し坂を登ると、音羽女子の建物が見えて来た。音女も今日で終業式だったらしく、少し多めの荷物を持った女子高生が、オレらとは逆方向に歩いて行き、すれ違う。
「お。いたいたー。」 「いーね!オレらを待ってる女子!!しかも二人も!!」
マーボがぶんぶんと手を振ると、校門の横で待っていたサヤカと成田サンが、小走りで走って来た。
「お返しなんて良かったのに。三人とも目立つから、学校まで来られるとこっちまで目立ってたまんないわよ。ねえ愛?」 「いやいや、そんなわざわざ来てくれたのに、、、でも、確かにここは目立つので、移動しよ、移動!!」
いそいそとサヤカやマーボを裏通りの方へ引っ張って行く成田サンが、少し後ろを歩いていたオレに気がついて「あ、」と小さく声をあげた。
「よお。」 「や、ヤマケンくんもいたの!?」 「いちゃわりーかよ。」 「ううん!そんなことない!!」
意外なくらい大きな声で答え、自分で出した声にビックリしたのか、顔を赤くしてうつむく。いつもと変わらない、成田サンだ。
「あ、あの、、、」 「なに?」 「昨日、言おうと思ってたんだけれども、報告を、」 「ああ、留学決まったんだってな。水谷サンから聞いた。」
一瞬、表情が曇ったようにも見えたが、半分うつむいているのでよくわからない。
「そ、そうだったんだ。、、、えーと、こないだは相談に乗ってくれてありがとう。そうなの、行くことにしたの。えっと、えっと、、、」 「いつから行くの?」 「あ、学校自体は6月からだけども、来月の半ばには、もう向こうに行く予定。」 「あっそ。」 「「・・・・・」」
なんだか、もっと聞きたいことがあった気がするのに、顔を合わせると何も言えなくなってしまう。向こうも、何か言い足りなそうな顔をしているのに、黙り込んでいる。
なんだよ、この空気。あー、めんどくせえな。
と、前を歩いていた四人が振り返り、成田サンに向かって話しかけた。
「ね、ね、愛ちゃんも、バッティングセンター、行かね?」 「え?」 「なんかね、これからみんなで行くんだって。うちらも一緒に行こうよ!今日はレッスンない日でしょ??」 「あ、うん、、、レッスンはないけど、、、」
そう言ってこちらをチラリと見た成田サンに、「くれば?」と言うと、少し安心したかのような顔をして「うん。」と頷いた。
と、そのとき、春らしい強めの風が彼女の髪をさらい、肩まで伸びた細い髪が分け目を無視して派手に踊った。
ああ、春一番ってヤツだなあ。
突然の強風で目を開けられないでいる彼女の代わりに、そっと手を伸ばして髪を直してやる。
「あ、ありがとう、、、」 「どーいたしまして。」
なんだかんだ言っても、目の前にすると成田サンはやっぱり可愛い。 ような気がする。
さて。どうしたもんか。
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