オトノツバサ | ナノ



43 「!」
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《件名 Re:こんにちは。》
《本文 もう教室。授業終わるまで待てるなら、どーぞ。》


鞄の中で振動を感じ、携帯を取り出して中を見てみるとヤマケンくんからのメールだった。

さっきメールしたときは、ヤマケンくんに会えるかもという高揚感ばかりで、水谷さんが一緒だなんて考えもしなかった。
ああ、違うなあ。水谷さんが一緒の講座を受けてることは知ってたや。
ただ、それがどういうことかを理解してなかっただけだ。

授業の後にヤマケンくんを呼び出したりしたら、水谷さんに誤解されてしまうかもしれない。ということは、ヤマケンくんにとって迷惑なことかもしれない。

水谷さんに誤解を受けたところで、わたしとしては痛くもカユくもないけれど、ヤマケンくんに迷惑がられるのは痛すぎる。

ああ、情けない。我ながらなんてしょぼくれた思考回路だ。
ヤマケンくんを思いやってのことじゃない。わたしは、わたしの心配ばかりじゃないか。

《件名 Re:Re:こんにちは。》
《本文 思ったよりも早く用事が終わっちゃいました。
    授業終わるまで待つのも迷惑になりそうなので、
    またの機会にします。勉強がんばってね!》

授業が始まるのを待って送信した、ピクリとも動かない白黒のメール。
最後に「!」で空元気を込めるのが、今のわたしの精一杯だった。

次から次へと溢れ出してきた情けない気持ち達。どうかバレずに流してもらえますように。


事務室で手続きを済ませた後、教室の後ろのドアにある小窓からコッソリ中を窺うと、ヤマケンくんの明るい髪色がチラリと見えた。
制服のタイの結び目のあたりがギュッと掴まれているみたいな感覚。苦しい。
隣に誰が座っているのかはあえて確かめず、小走りで予備校を後にする。

なにやってるの?
報告は?お礼は??
あと少しで会えなくなってしまうのに、こんなことで後悔しない??
いくら経験値が少ないとはいえ、頭ではわかっている。こんなことをしている場合じゃないって。

そうだよ。
ヤマケンくんに面と向かってお礼を言って、がんばってくるねって。日本に戻ってきたときに、またどこかで偶然会えるといいなって。

笑って言うことができたら、と、何度も何度も空想したのに。

きっと彼は、いつもの涼しい顔で「ふーん」とか言って、「ま、がんばれば?」とか言って、またわたしの頭を撫でてくれて、、、

って、これじゃ、空想というより単なる妄想だ。

急におかしくなって、ふふっと笑って立ち止まると、行きに前髪を直した原付が、まだ止まっているのに気がついた。

もう一度、サイドミラーを覗き込む。

やだなあ、また泣いてるよ、わたし。
情緒不安定にもほどがある。


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