41 三月アイス
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学年末も終わり、卒業式も終わり、消化試合のような学生生活もそろそろ終わりに近づいてきた今日この頃。
三月です。少しだけ日も長くなって、昼休みは屋上でボンヤリしてられるくらいには暖かくなってきてます。ただいま購買で買ったアイスを食べるサヤカの横で、関係各所へ電話連絡中。
『え?伴奏を?それは別にいいですけれども、、、』 「スミマセン、無理言って。リハもゲネプロも来てもらう予定ですので、よろしくお願いします。」 『しかし、自分のお抱えの伴奏者がいるなんて、成田さんもなかなかやりますねえ。』
どっかの好々爺のようにホッホッと笑う唐木先生に、見えもしないのに携帯電話越しにえへへと微妙な笑顔を返しながら、とりあえず良かったとホッと胸を撫で下ろす。突然、秋田さんがピアノ伴奏をするなんて言い出すから、いろいろと手配をしなければならず大変だ。秋田さんの気まぐれは前からだけども、なんだか最近、特にわけがわからない。なんなのかしらね?春だから??
そうそう、留学は、両親を唐木先生が説得してくれたため、決行と相成りました。未だに不安でいっぱいだけれども、根本的には「行きたい」と自分が思っているから。それに気がつかせてもらえたから、がんばってみようかと。
結局、音女に籍を残したままでの留学で、うまくすれば、そのまま大学にも内部進学させてもらえるかもしれない。図らずも、音女にいたことが吉と出たことに、ビックリです。ようは、あの中学時代にわたしの進路を決めるきっかけになったピアニストの方と、同じような経歴になると言うわけ。音女の高校、大学を卒業だけれども、実際はほとんど海外に武者修行に出ている状態。こんなことが許されるのは私立のお嬢様校ならではですなあ。
ヤマケンくんには、アレ以来会っていないのでまだ報告できていません。
サヤカには事後報告になってしまったので、めちゃくちゃ怒られました。 というか、今でもだいぶ怒ってます、、、
「電話終わった?」 「あ、うん。」 「まったく、そのジジイさえいなければ、留学なんて話にはなってないってのに。腹立たしい!!」 「いやあ、別に先生のせいでは、、、」 「しかも事後報告ときたもんだ!愛らしいっちゃ、愛らしいけど、ちょっとは迷ったりしなさいよね!?」 「えーと、、、」 「しかも、なんでまずヤマケンに相談なわけ!?もう、マジでわけわかんないんですけど!?」 「いやー、それはなんというか、もののはずみで、、、」 「なんのはずみよ?だいたいヤマケンは愛のなんなわけ!?お兄ちゃんか?相談役か!?」
プリプリと怒って目の前のカップアイスをぐっちゃぐっちゃとかき混ぜるサヤカに、恐る恐る言ってみる。
「えーと、、、好きな人?」 「は?」
アイスをかき混ぜていた木のスプーンの先から、アイスがタラリと屋上のコンクリートに落ちる。
「あ、アイス垂れたよ。」 「はあああ!?」 「いや、だから、アイス、、、」 「アイスは、もういい!!何それ!?好きな人!?」
とりあえず、恥ずかしいのでブンブンと首を縦に振るだけで精一杯。なんだ、この恥ずかしさは。そして、なんだかすごく嬉しい気持ちだ。
そうなの、わたし好きな人がいるの。
「って、なにニコニコしてんのよ!?いきなり遠距離じゃないよ!!!」 「え?」 「だって、言ったんでしょ?ヤマケンに。もちろん振られたりはしないわよね?」 「え?え??」 「日本とヨーロッパだなんて、なんつう遠距離!あのエロ狐は、大丈夫なわけ!?」
あー、なんか、ものすごい誤解されてる。これはまずい。
「あのー、告白とかしたわけじゃない、よ?」 「、、、は?」 「だから本人には言ってないんだってば。」 「どうしてよ!?チャンスはあとちょっとしかないじゃん!!」 「、、、あのね、」 「なに?!」 「えーと、ずっと言いそびれてたんだけども、ヤマケンくんは」 「なによ!?」 「、、、ちゃんと、好きな人がいるんだよね。」 「・・・・・」
ポカーンとしたままアイスをしたたらせるサヤカに苦笑いを送りつつ、屋上の金網にガッシャンと背中を打ち付ける。
そうなのよ。彼にはちゃんと、好きな人がいる。
そのことと、わたしが彼を好きだということは、何にも関係はないとも言えるけれども。なんというか、そう言い切れないのは、わたしがあまりにも臆病なせいなのか。
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