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37 右回りのうずまき
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「だからー、まずはどうして踏み切れないのか、そこらへんから整理しろよ。」
「う、うん。わかった。」

文句をつけるつもりで捕まえた彼女の予想外の涙に出鼻をくじかれ、なぜか真面目に人生相談を受ける羽目に。マジで今日は厄日だ。こんなはずじゃなかった。

だって、あれだぜ?華奢な肩を掴みグイッとこちらに向かせたら、大きな瞳いっぱいに涙が溜まってたりして。しかも、隣に座った瞬間、ダムが決壊ときたもんだ。

「でもね、本当にいい話だと思うの。遅かれ早かれ、留学はするつもりだったし、それが唐木先生も一緒ならなおさら、、、」
「じゃ、迷うことねーんじゃねーの?」
「そうなんだけど、行けばいいんだけど、でも、、、」
「サヤカはなんて言ってんの?」
「、、、まだ言ってない。行く決心がついたら言おうと思ってる。」
「はあ?相談すりゃいいじゃん。あいつに。」
「・・・・・」

ああーっ!イラつくっ!!

「どうせ、あれだろ?サヤカには、そういうときに即答で留学するようなドライな感じに見られたいってとこだろ?」
「え!?」
「おいおい、図星かよ、、、」
「、、、えーと、見られたいというか、たぶんそういう風に思われてるか」
「だーかーらー、相手の望むような言動を、わざわざあんたがしなくちゃいけないなんて道理はねーの。自分がどうしたいのかだけ考えろ。」

ああ、もう、なんでこいつの心情までオレが推測しなきゃなんねーんだよ。しかも、このクソさみー図書館のロビーで。

「いーか、とりあえずオレが思うことだけ言っとく。まず、高校は日本で出ておいた方がいい。もしも音楽の道でやっていけないようなら、どうすんだよ?つぶしが効かねーだろーが?」
「あっ なるほど。そんなこと考えもしなかった。」
「考えろよ、そんくらい。」
「そっか、、、そうだよね。でもヤマケンくんは?」
「は?」
「将来は??」
「オレはそれなりにやってりゃ人生勝ち組だからな。適当に東大理Vでも入って、国家試験受けて医者ってのが無難なんじゃねーの?」
「うわあ、東大理Vで医者は無難な人生じゃないと、、、」
「なんなら官僚や弁護士でもいいし、どっか企業に入ってもいいし、まあ、どうにでもなんだよ。」
「、、、わたしは、たぶん、他に何もできないなあ。」

しょんぼりと肩を落とす成田サンに、言ってやりたい。単に、音楽以外やる気がねーだけだろーが。高校卒業の資格すらどうでもいいくらいに、な。

「そういえばウィーンって、公用語は何語?」
「え?ド、ドイツ語だけど、」
「しゃべれんの?」
「しゃべれないけど、、、元々音楽用語ってほとんどがドイツ語だから、現地でレッスンを受ける分には問題ないとは思う。たぶん。」
「家族とはうまくいってんの?」
「え?」
「だから、成田サンの家族。」
「普通に仲良いよ?お兄ちゃんはもう家を出てるから、たまにしか会わないけど、、、」
「ふーん。」
「え?なになに??」
「いやさ、単に、不安なんだろ?仲のいい家族と離れて、言葉が通じない海外に一人で行くんだぜ?んなの、悩んで当たり前だっつの。」

しょんぼりと肩を落としてうつむいていた成田サンが、目を丸くして、こっちをジッと見た。

「そっか。」

そうだよ。それだけの話だ。あんたの気持ちは決まってる。きっと不安を抱えつつも、遅かれ早かれ決心して海外へ旅立つ。

あー、つまんねーな。あいつらも寂しがるだろーに。

「そっか。不安なだけなんだ。」
「ま、そういうこった。」
「、、、ありがとう!ヤマケンくん!!なんかちょっとスッキリしたかも。」
「はいはい。そりゃ、よかったな。」

スッと立ち上がって外を見ると、まだまだ土砂降りの雨。ちょっと待ったところで止むような雨では明らかにない。傘もねーし、どうすっかな。とりあえずタクシーでも呼ぶか。こいつも送ってやんねーといけないしな。

下を見ると、綺麗に巻いた成田サンのつむじ。ふーん、右回りだ。

ふいに触りたくなって、手を伸ばしグリグリとその右回りのつむじ付近をなでまわしてみた。ビックリして上を向こうとする彼女を無視して、そのまま頭をなで続ける。

「ま、がんばれ。」
「、、、?、、、う、うん。」

雨はまだまだ、止みそうにない。


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