36 緑の向こうの小さな背中
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自慢じゃないが、気の長い方ではない。 オレのイライラがピークに達したあたりで携帯の呼び出し音が途切れ、成田サンの声が耳元で聞こえた。
『も、もしもし、、、』 「で、なに?」 『え、』 「相談。あんだろ。」 『えーと、あの、実は、り、留学をね、、、』 「は?」 『い、いや、なんでもないです!!』
っあー、イライラするっ! さっさと言えよ、オレに言えよ、ちゃんと順序だてて相談してくれ!なんだよ?留学??聞いてねーよ、んなの!!
「なに、会えないってそーいうこと?留学すんの?いつ?どこに??」 『あー、もう、ゴメンね。ヤマケンくんに全然関係ないのに、こんな話、変だよね?忘れて?』 「はあ?あんたさ、話振っといて逃げんなよ。で、今はどこにいんだよ?」 『本当に、もういいから!ゴメンなさい!!』
関係ないのかよ。あー、そーかい。 もうめんどくせーから、放っておくか?
と、グラリと揺れる中庭の緑の向こう、図書館のエントランスのベンチに小さな背中が見えた。一昨日見たばかりのグレーのコートに音女の制服。そして、消えそうなほど小さな後ろ姿。
ああ、なんだか本当に、、、
縁があるって、こういうことじゃね?
『あ、あの、、、』 「、、、ああ、もういいわ。」
もういい。もう、あんたがどこにいるのかなんて聞かねえよ。オレから逃げようなんて100年早え。関係ないだなんて言わせない。嫌だと言われても関わってやるから覚悟しとけ。
コートのポケットに携帯を突っ込みながら、エントランスへの渡り廊下を早足で歩く。
とりあえず、文句を言ってやる。
いっつもいっつも、わけわかんねーことばっかりしやがって。 そもそも最初に会った時から気に食わねえ。ステージ上から人をガンガン揺さぶっておきながら、ステージから降りれば別人みたいに紛れてわからなくなりやがる。何度も二人で会ってたのに、まったく気がつかなかった。オレのあの日の感動は、手に握った汗は、どうしてくれるんだっつの。
で、挙げ句の果てに留学?もう会えないからどうしようって、あんたの方はどうして欲しいんだよ!?いったいあんたは、なんなんだよ?オレのなんだ??好きとも嫌いとも言われた覚えはねーからな?
ロビーにたどり着いたけれども、小さな背中はぴくりとも動かない。手元にある携帯を見てるんだろうか?メールでもしてんのか?メールで適当にごまかして逃げようったって、そうはいかねーからな。
ほら、もう捕まえた。
「で、いったい、どうしたわけ?」
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