34 下睫毛の堤防
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土砂降りの雨の中、図書館のロビーで手元の携帯をジッと見たまま、一歩も動けない。少しでも動いたら、目の中いっぱいに溜まった涙がこぼれ落ちてしまいそうだ。
「で、いったい、どうしたわけ?」
携帯はとっくに切れてしまっているのに、ヤマケンくんの声がする。ああ、なんか、もうわたし重症だなあ、、、
「おい、聞いてんのかよ!?」
え?
後ろから肩をグイッと掴まれ、見上げるとそこにはヤマケンくんがいた。
「え?えええ??」 「なっ、あんた泣いてんの?なんなんだよいったい、わけわかんねーよ。」 「ど、どうしてここに、、、?」 「さっきあそこから電話しながら、ロビーに成田サンが座ってんの見えたから。」
中庭を挟んで向かいにある、自販機コーナーを指差しながらブスッとした表情で見下ろす。 お、同じ図書館にいたってこと?なんなのこのニアミス具合。でも、、、
「でも、"もういい"って、」 「あ?だから、どこにいんのかわかったから、もう電話で話さなくてもいいってことだろーが。」
なんなんだよ、まったく、あんた本当にわけわかんねー女だなあ、とブツブツ言いながら、わたしの隣にドカッと座る。
「わ、わたし、怒らせたのかと思って、、、」 「はあ?あんたがわけわかんねーのなんて、最初っからだろーが。なんでそんなことでいちいちオレが怒らなくちゃなんねーんだよ?」
明らかに怒ってるような口調で、怒ってるような顔をしているけれども、ああ、これはいつものヤマケンくんだ。
良かった。
ホッとしたら、下睫毛の堤防でかろうじて留まっていた涙が、ボロボロとこぼれてきてしまった。
「はあ?なに??なんなのいったい?!」
焦りながら、呆れながら、制服のポケットから綺麗にアイロンのかかったハンカチを取り出し、わたしに渡す。 今時の高校生男子は、普通ハンカチなんてもってないわよ、このおぼっちゃんめ、などと思いながらも、渡されたハンカチに顔を埋める。
ヤマケンくんだ。ヤマケンくんが目の前にいる。 なかなか止まらない涙のおかげで顔を上げられないけれども、すぐ隣に、ヤマケンくんの気配を感じている。
喉の奥の方がギュッとして、身体中がざわついている。
経験値の異常に低いわたしでも、さすがにわかっているのです。 これが恋ってヤツだな。
妙に振り幅の大きい日。
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