オトノツバサ | ナノ



03 風林火山の冬期講習。
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「で、どうだったのよ!先週の合コンは!!というか、ヤマグチくんは!!!」
「もちろんお声かかったんでしょ?舞子に声かけないわけないよね!?」
うちの学年では、たぶんナンバーワンじゃないかと思われる女子を囲み、昼休みは大盛り上がり。
もうすぐクリスマス。女子高生はクリスマス商戦、まっただ中です。

「違う子から声かかってるようー。断りたいけどなんて言おう??」
「うわー、舞子でもダメかー。」
「なんというか、結局いつも、こっちから下手にいかないとダメだよね?あの人。」
「そうそう。で、主導権握られてさあ、、、」
「そっちから来たんでしょ?みたいに逃げ道作ってあるんだよね!」
「むっかつくわー。」
「でもさー、かっこいいんだよねー」
「どうにでもして!って感じよね!」
「というか、、、むしろ、あのエロ狐、死ねばいいのに」
「・・・・・」

というわけで、学年ナンバーワンを送り込んでも、ヤマケンくんは無理でした。と。はい。


「とりあえず、声かけてきた子にさ”本当は、クリスマスにヤマケンくんに誘って欲しかったの”とかメールして様子見てみたら?」
「えー、それ、酷くない?向こうは舞子狙いなんでしょ??」
「いや、舞子のキャラならいける。天然で通る!!」
「う、うん。わかった。わたし、メールしてみるよ!」


いやいや。通らないと思うなあ。
その男の子に、心から同情します。

ヤマケンくんというのは、お隣の超お坊ちゃん高校、海明学院の有名人で、容姿端麗、学業優秀、家柄もバッチリというエリートを絵に描いたような人らしい。山口賢二という名前なので、ヤマケンと呼ばれてるみたいなんだけれども(キムタク、みたいなもんか?)、本気のファンの子たちは絶対に「ヤマグチくん」と呼ぶ。あだ名で呼ぶよりも、逆に親密な感じがするから?彼女になったときにヤマケンとは呼ばないだろうし、とか??

わたしは、もう、芸能人を見るような目で見てますので、ヤマケンと呼ばせていただいてますよ。や、もちろん知り合いでもなんでもないけれども。というか、顔すら知りません。

「愛は、本当に興味ないの?」
学校からの帰り道、予備校へ向かう途中にサヤカから声をかけられた。
普通科のサヤカとは中学からの付き合いなので、タイプは違うけれどもなんとなく仲が良い。派手めの誰が見ても綺麗だと言いそうな女の子なので、よく合コンには駆り出されてるみたいだけれども、海明との合コンは行ったことないんだそうな。サヤカでさえ行けないだなんて、それだけ競争率が高いってこと?海明学院恐るべし。

「うーん、なんというか、、、わたしには縁がない人というか、、、」
「なにそれ?」
「だから、別世界の話だなーって。」
「ふーん。」
食いつきの悪さにちょっと不満げなサヤカが、突然、あ、と声を上げた。

「ほら、噂をすれば、、、」
と、交差点を過ぎたところにあるタクシーを指差した。

おおっ、あれが噂のヤマケンくんか。

うわー、背高いね。おしゃれだし。髪サラッサラだわ。どこいくのかなあ?こっち振り向かないかなあ?と、二人でストーカーのように後ろからジロジロ見ながら距離をつめていると、ヤマケンくんは二つくくりの中学生のような女の子に声をかけ、並んで歩いて行った。

「あれ?意外なチョイスだね。」
「そうねえ、、、彼女、ではないよね??」
「お、自転車から庇ったよ!」
「うわー、立ち居振る舞いもイケメン!」
「ありゃ、見えなくなっちゃった。どこいった?」
「見失ったねー。」(でも、なんか、どこかで見たことあるような、、、)

ひとしきり騒いだ後に、サヤカがボソッと、
「なんかさ、あんなモッサイ子が有りなんだったら、愛でもいけるんじゃね?」と。
「えーと、、、」
「はい」
「今の時点では、たぶんわたしの方がかわいいっぽくは見えるかも。」
「でしょ!というか、自分で言っちゃう!?愛って案外言うわねー?」
カラカラと気持ちのいい声でサヤカが笑う。

「でも、これは、かなりがんばってキープしてる精一杯なラインなわけで。」
「へ?」
「さっきの子さ、すごい細いし、顔も小さいし、髪もすごく綺麗だったよ。肌も白くて陶器みたいで。」
「あー、、、」
「たぶん、ちょっとがんばるだけで、すんごいかわいくなるよね。姿勢も良いし。頭もよさそうだし。」
「まあね。そうかもね。」
「その、伸びしろの違いが、わたしと彼女の差ではないでしょか?」
「はー。愛のその冷静な分析。夢がないわー。
 もうちょっと人生楽しみなよー。女子高生なんて自意識過剰でなんぼよ?」
「はいはい。スミマセンねー。」

たぶん、こんな風に引いてしまう感じこそが、それこそ自意識過剰なんだと思うけども。ちょうど予備校までついてしまったので、そこいらへんは口に出さずに飲み込んでみる。

これから買い物に行くというサヤカと予備校のエントランスで、じゃあね、と手を振って別れると、一人、階段を上って二階の教室へ入り席に着いた。

二日前から始まった冬期講習。年末までノンストップの強行軍。
超難関コースってことで、みんな殺気立っているので、三日目にしてすでに脱落しそうなわたしです。ちょっと早まったかなあ。受講条件にギリギリ偏差値が足りてたので、ついうっかり調子に乗ってしまった。

といっても、英数国の三教科のうち、わたしが受けてるのは英国のみ。
ほとんどの人がこの殺気立った授業をもう一時間受けていくのだから、本当にすごいと思う。合コンだ、クリスマスだ、と浮き足立ってるうちの学校とのギャップに目眩がします。気合いが違うわ。尊敬する。
勉学は戦に同じ。風林火山!!(もちろん、ノートに書いたわよ。)
がんばれ、わたし。

と、そこに、さっき見失った二人が入ってきたのでびっくり。
あれ?ヤマケンくんと、二つくくり女子??
とすると、やっぱりこないだ掲示板の前にいたのはこの二人、、、なのかな?

海明の人でも、一年から予備校通ったりするんだなあ。なんだか意外だなあ。
というか、見下ろす発言の子は、やっぱり彼女なんかな??
つか、本当に綺麗な男の子だなー、もうちょっと近くで見たいなあ、、、

なんてことを思いつつ昨日までのまとめノートを見ていると、ガタンと隣で物音が。

ん?、、、えええええええ!
わたしの隣にヤマケンが!!!(驚きのあまり呼び捨て)


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