26 ただのxx.
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ゴンッ
ステージから降りて楽屋とは名ばかりの店員さん用のロッカールームに行くと、待ち受けていた師匠に軽いゲンコツをくらい、わたしの初ライブは終わりました。
「愛ちゃ〜ん、、、俺、言ったよね?勘違いすんなって、言ったよね??」 「、、、スミマセン。調子に乗りすぎました。です。」
「え?え??ナニナニ??」 「良かったよね?すごい良かったよー。愛ちゃんおつかれっ!」 汗を拭きつつ、水を飲んだり、煙草に火をつけたりしながらリズム隊の二人が楽屋に入ってくる。 秋田さんはギロッと二人をにらむと、どうやらそちらにもお怒りのご様子。
「うちの子、素人で初ライブだって言ったよね??あんなに煽って、追いつめちゃってさあ。」 「えー?全然、素人っぽくなかったじゃん。」 「そうそう。度胸もいいし、ソロ後半なんて背後にチラチラ秋田くんが見えるフレージングで、最高だったよねえ?さすが秋田くんの秘蔵っ子。」 「ほんっと。あんな挑発されたら、受けて立つしかないよねえ?」
おおっ、そうきたか。うーん、、、
「あのー、あれは、、、師匠のアドリブソロ、まんまコピーしただけなんです。」 「「え!?」」 「だーかーらー、そういうことなの!!」
ムッとした秋田さんが煙草に火をつける。ああ、もう、楽屋が煙いよ。わたし、スモークされちゃう。
「じゃ、もしかして、途中で力つきたのは、、、」 「単に、コピーしたフレーズがそこでおしまいだっただけでして、、、」 「あははは。じゃ、俺、すんごいいいタイミングでドラムソロ入ったじゃん!」 「や、本当に。スケールで逃げるわけにもいかないし、かといってあのテンションで続くようなフレーズをその場で考えるなんてわたしには無理でした、、、」
しょんぼりしてるわたしに、二人は大笑いしながら励ましの言葉をかけてくれる。 「でも、完コピだったよ。もう、フレーズ全部が自分のものになってたし。」 「俺らも、すっかり騙されちゃったもんなー。」 「ま、楽しかったからいいじゃん。」 「何よりお客さん、喜んでたし。」 「そうそう。それが一番!」
「じゃ、飲んでくるわー」と言って店内に戻る二人を見送りながら、チラッと秋田さんを覗き見ると、まだムッとしている。ああー、、、怒ってる。怒ってるよなあ。そりゃそうだ。大して弾けもしないくせに調子に乗って、あの人達と対等に渡り合おうとして、本当に恥ずかしい。途中、わたしは確かに、「この人たちには負けない」と思いながら弾いていた。セッションに勝ち負けなんてないのに。
もしも勝ち負けがあったとしたら、完敗だ。いや惨敗だよ。
「あ、あのお、、、」 「ったく、人のフレーズ使って負け試合しやがって。」 「・・・・・(え、そっち??)」 「や、そうじゃなくてね。あー、、、もう、終わっちゃったもんはいいんだけどさ。」 「はあ、スミマセン、、、」 「「・・・・・」」 「、、、で、どうだった?楽しかった??」 「はい!トータルでは楽しかったです!!」 「じゃ、いいや。友達が待ってるんじゃない?行っておいで。」
秋田さんは楽屋のパイプ椅子にドカッと座り込むと、シッシと追い払うように手を振る。ペコリと頭を下げ、鏡に向かって髪を少し直してから、鞄を持って店内に戻った。
サヤカ達がいるテーブルを見ると、みんなでワイワイ言いながらピザを食べているようだった。いつもの雰囲気にホッとしつつも自分の失態にみんなは気がついているだろうか?と少し行きづらい、、、とりあえず、カウンターでドリンクもらってこようかな。
と、そこに、腕を組んだヤマケンくんが並んでいるのが見えた。
「よー、おつかれさん。」 「あ。うん。」 「「・・・・・」」 「完敗?」 「(ドキッ)、、、、、やっぱり、バレバレ?」
ニヤニヤと意地悪そうに笑うヤマケンくんが、ひたすら恨めしい。 、、、せっかく見に来てくれたのに。もうちょっと、いいとこ見せたかったなあ。今更ながら、いろいろ欲が出てきた。
しょんぼりとうつむくわたしの頭をポンポンと叩く。 「や、そーでもない、、、あいつらんの中では、今、成田サンは神。他の客もだいたい絶賛。」 「ほ、ほんと!?」 「ほんと。」
パッと上を見上げると、さっきよりは優しい顔をしたヤマケンくんの顔がそこに。
や、ヤマケンくんはどうなんだろう? どうだった?わたしの演奏、楽しんでくれた??
わたしが音を出して空気を震わせ、その振動が誰かに伝わる。 なんだかんだ言っても、音楽ってのは実のところ、それだけなんだ。
わたしの振動は、あなたまで届きましたか?
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