オトノツバサ | ナノ



22 煙草の煙とオニオンリング。
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店に入ると、煙草のにおいに、カチャカチャという食器の音、そして店の奥から聴こえてくるのは生ピアノの音だった。

先陣切って中に入ったトミオとサヤカが奥を覗き込みながら、
「うわー、なんかオレら場違いじゃね?」
「う、うん、でも確かにこのお店のはずなんだけど、、、」
と、戸惑いの声。

確かに、店の中では高校生ってだけで明らかに浮いているわけだが、、、かといって店内にいる人間が統一性があるかというとそうでもない。なんというか、雑多な空間?でも、それほど居心地が悪い感じでもなかった。

ふーん。こんなとこで成田サンが演奏すんの?ほんっとに、よくわかんねー女だよなあ。そんなことを考えながら一番後ろで事の成り行きを見守っていると、オレらの後から店に入ってきた、背の高いおっさんが声をかけてきた。

「ねえ、君ら高校生?もしかして愛ちゃんの友達かな?」
「あー、えっと、今日発表会だって聞いて、、、」
「発表会!?、、、そうね、確かに発表会だねえ。」

男はクスクスと笑いながら店の店員に指示をだし、比較的ステージ近くの席に案内してくれた。なんだ?関係者か??

ステージ上では、大学生くらいの男がものすごいスピードで鍵盤をたたき、ハイテンションな演奏を繰り広げている。

「うわー、すげえっ。」
「ジャズだ、ジャズ!」
「すごいし、なんか、、、ドキドキする演奏だよなあ。」

渡されたメニューを見ながら、小声でトミオ達がわいわい言っていると、さっきの男が口を出してきた。
「んー、彼はアクションも派手だしいいよね。ただ、ドキドキするのは、音が転びそうだからかもなー。」

頭上に「?」マークを浮かべている三人を押しのけ、サヤカが口を開く。
「あの、、、愛とはどういう、、、?」
「ああ、ゴメンね。彼女にピアノを教えてる、秋田といいます。」

どうやら、こいつがピアノの先生ってやつらしい。おっさんだけれども、先生というには若い。たぶん、、、20代半ばから後半。

「彼の次が愛ちゃんの出番だから、それまでご飯でも食べてなよ。学生割引きしてもらえるよう、マスターに頼んでおいてあげるから。」

ニッコリ笑って立ち去る後ろ姿を目で追いながら、サヤカがほーっとため息をつく。
「なんか、おっとなー。しかもイケメン。背も高いし、、、」
「えー!ただのおっさんじゃんよー!!つか、背は高くなくちゃダメなのっ!?」
「そーだよ、サヤカちゃん!!あんなエロそーなオヤジ!!」
「ま、背は高いにこしたことないわな。」
「うっせー、ヤマケン!お前は黙ってろっつの!」
「ねえねえ、背は高くないと、、、」

バカはほっといて、飯でも頼むか。
片手を軽く上げて店員を呼び、取り分け易そうなものを適当に何品か頼む。飲み物はえーと、ペリエでいいや。未成年、未成年。

「おい、サヤカ、飲み物は?」
「あ、えーと、じゃ、ラズベリーティーで。」

店員が全てメモしたのを確認し、「じゃ、それでお願いします。」と、メニューをたたんで店員に渡す。

「おい、待てヤマケン。オレらの分は?」
「あ?なんか飲むのか?」
「飲むでしょ!つか、お前、サヤカちゃんにはしっかり聞くのなっ?」
「あ、お姉さん、オレコーラで!!」
「じゃ、オレ、ジンジャエールね。」
「あ、あと、コーラとこれ、オニオンリングとポテトフライ。」

あぁ、このテーブルだけ、ファーストフード店の様相だ。


と、そのとき、さっきの男に連れられて成田サンがテーブルにやってきた。
オレらがいるのを確認して、明らかに動揺している。

「うわあ、ほんっとにみんなが来てた!なんでなんで??」
「あー、さっき外でたまたま会って、暇そーだったから連れてきたの。」
「おおっ、愛ちゃんいーね!今日は一段とかわいいっ!!」
「出番、次でしょ?がんばってねー。」
「、、、とりあえず、座れば?」
「ああ、うん、ありがと。」

で、今日の成田サンはというと、いつもの挙動不審モードか。一番よく見るパターンだな。ただ、黒のシンプルなワンピースに、ゴールドのアンティークっぽいバレッタがよく合っている。薄く化粧もしてるっぽいし、サイドの髪が綺麗に編み込まれてるところを見ると、スタイリング込みで兄貴の仕事か。

こうして見ると、ほんと悪くねーよなこいつ。つか、だいぶ可愛いような気がする。なんてことを思いつつ眺めていると、バチッと目が合った。何か言いたそうな表情。

お、なんだなんだ?今日の格好褒めてほしい?それともオレに、チョコでも用意してたか??

「そういえば、マナミちゃんとユカリちゃ、、、」
「あー、ほんっとに女子の情報網うぜー!!」


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