オトノツバサ | ナノ



19 トリプルブッキングにならない理由。
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昼食後、パックジュースを片手に、いつもの定位置である渡り廊下の窓枠に腰掛けていると、サヤカがやってきた。綺麗に整えられた眉が、ハの字に。かなりの困り顔だ。

「絵に描いたような困惑顔だね。」
「わかるー?」
「うん。眉毛がハの字に。」

わたしの隣に腰を下ろし、ハーッと深くため息を着くと、サヤカは事の顛末を話し始めた。

「さっき、ユカリから、バレンタインの相談を受けてさ。どこのチョコがおいしいとかその手の話なんだけども、、、」
「ああ、サヤカ、カカオ中毒かってくらいチョコ好きだもんね。」
「まあ、それはいいのよ。おいしいチョコ情報くらいいくらでも流しますよ。で、問題は、」
「うん、問題は?」
「渡す相手が、なんとヤマケン。」
「あー、、、あのね、わたし別にヤマケンくんとは、」
「や、違うの。愛に気を使って困ってるわけじゃなくて、実はさ、昨日、マナミからも同じような相談受けてて、、、」
「ふーん。チョコ情報くらいな感じなら、どっちも応援してるよってことでいいんじゃない?そこは気にしなくても。」
「それがさ、お互いに内緒にしてるっぽいんだよね。」
「え?なんでまた。」
「ほら、ことし日曜日じゃん?で、渡すために待ち合わせっていうか、デートの約束をしてるらしいのよ。」
「ええ?二人とも?ダブルブッキングじゃん。」
「そうなのよ。で、お互いに出し抜いちゃってゴメンみたいな感じっぽい。」
「うわー。それを両サイドからそれぞれ聞いたとなると、そりゃ困るね。」
「でしょー?、、、あいつ、何考えてんだろうね。どう思う?」

どう思うって、そりゃ、、、

「特に、何も考えてないと思うなあ。」
「はー、、、やっぱりい?」

サヤカはもう一度大きくため息をつきつつ、つい最近街中でヤマケンくんにバッタリ会い、他校の女の子のプライドをへし折るのを目の前で見た話なんかをしてくれた。

「こないだスタバでフラペチーノおごってくれたヤマケンはなんだったのかしらね?意外と紳士じゃんって、思ったんだけど、女の子相手でも容赦ないってば。」
「相手が一番凹みそうなところを狙ってるのが、またやらしーよね。頭いい人は怒らせちゃいかんね。」
「でしょ?すっかり使われちゃったわよ。わたし。」
「あはは。」
「愛はさ、結局どうなの?ヤマケン。」
「んー。」

考え込むわたしを、サヤカが覗き込む。

「だからー、わたしは別に、」

言い出そうとしたそのとき、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

「まあ、続きは放課後!チョコ買いに行くんでしょ?」
「あ、うん。」

ジュースのパックをゴミ箱に放り込み、それぞれのクラスに小走りで向かう。

わたしは、別に。
わたしは別に、、、なんて言おうとしてんだろう?自分でもよくわからない。

もしも、ユカリちゃんやマナミちゃんみたいに、わたしが呼び出したら、ヤマケンくんは来てくれるのかな?
でも、それで渡せたとしても、きっと、深い意味もなく、他の女の子達と同じようにチョコレートを受け取り、一ヶ月後にはスマートなお返しをくれるんだろう。そんなの、、、全然うれしくない。

今週末は、バレンタイン。そういえば、ピアノの発表会も今週の日曜日。
そっか。どっちにしても、ヤマケンくんにチョコレートを渡すような時間はないわけだ。

逃げてない、逃げてない。だってしょうがないもん。
ね?


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