16 あめゆじとてきてけんじゃ。
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『ありがとうございましたー!』
フロアに散らばった髪を集めながら、スタッフさん達が大きな声で挨拶をする中、奇しくも出来上がりが同時になってしまったわたしとヤマケンくん。
いいんだ、わかってるんだ。このニアミス具合、もうこれは病気だ。だいぶ重症の。とりあえず見て見ぬ振りだか、気がついてないんだか知らないけれども無視されてますしね。受付でお会計中のヤマケンくんの横を通り抜け、お兄ちゃんに一声かけてさっさと退散することに。(わたしの支払いは、もちろん兄持ちね)
「じゃ、帰るね。」 「ああ、そうそう。これ、こないだの撮影で使ったやつ、愛に似合いそうだったから下取りして来ちゃった。」 「あ、ありがと。」 ガサッと大きな紙袋を渡される。とってもとっても嬉しいけど、こんな天気の悪い日に大荷物は、、、
「で、母さん達は元気?」 「うん、元気。お父さんが、たまには顔出せって言ってたよ。」 「あー、忙しいんだよ。わかるっしょ?」 「わかるけどっ。じゃ、また来月ね。」 「ほいほい。」
外に出てみると、いつもなら真っ暗な時間なのに、積もった雪に灯りが反射されてなぜだか妙に明るい。あー、積もったなあ、、、ローファーでフワフワの雪をもふもふと慎重に踏みしめながら美容院の階段を下りる。たった5段の階段でも、左手に学校の指定鞄、右手には大きな紙袋と傘、足元は革靴という出で立ちでは心もとない。
あ!
もちろん両手は荷物でふさがっているので手すりも掴めず、案の定ズルッと滑ったのだけども、、、後ろからコートの首もとをガシッと掴まれ、事なきを得た。ああっ、ビックリした。って、これはやはり、
「どんくせーなー、成田サン。」 「あ、、、どうもありがとう。」 「ほら、かせ。」 「え?」 「荷物だよ。あんたは、そっちに掴まって降りて。」
ヤマケンくんに鞄を奪われ、手すりに捕まりながらなんとか下まで降りれたものの、遊歩道まで出てみるとかなりの大雪。ボタン雪っていうの?ボテッと大きな雪の固まりが、眼前いっぱいに上下左右ワサワサと動いている。 傘をさすべきかどうしたもんかと迷ってると、「傘なんてさしても無駄だからやめときな。余計に転ぶぞ。」と、わたしの頭の中を見透かした声が。
むー、確かに。 牡丹雪は重力を無視して、上下左右にトリッキーな動きを見せてやがります。
とりあえず、いつまでもヤマケンくんに鞄持たせたままじゃ申し訳ないもんね。 傘の留め具をパチンと止めてお兄ちゃんからもらった洋服が入ったでかい紙袋にガサッと刺し、腕に紙袋の紐を通して肩に背負う。
「ありがと。これで片手は開くから大丈夫。」 後ろを振り向き、持ってもらっていた鞄を受け取ろうと手を伸ばすと、 「ほんっとに愛想のねえ女だなあ。こういうときは甘えとけ。」と紙袋まで奪われてしまった。
えー!?
「駅まで送る。」
うーわー。
実のところ、昨年末からこじらせているニアミス病のおかげもあって、ヤマケンくんに関してはけっこう詳しい。 不良達とケンカしてるのも見たことあるし、他校生をボコってるのだって見たことがある。連れてる女の子だって、水谷さん以外は毎回違う子なので顔も覚えていないほど。うちの学校でのうわさ話も、かわいさ余って憎さ百倍、悪評だらけだ。
でも、なんだかんだ言われていても、 実際に接するヤマケンくんは、口は悪いがとても紳士的。 育ちがいいとは、こういうことなんだろうな。
なんかほんとに、
ずるいよなあ、、、こういうの。
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